相続で得た1億5,000万円で次々と収益不動産を現金買い
Dさん自身も理解しているように、Dさん夫婦のポートフォリオを見て、まず目につくのが「収益不動産の割合」の高さだ。Dさん夫婦の純資産2億円に対して、収益不動産の資産額は1億2,000万円であり、全体の60%を占めている。
都心部にそれなりのマイホームを持てば平気で1〜2億円するご時世であり、純資産2億円前後クラスの富裕層において、その半分以上が不動産であることは決して珍しくない。ただDさん夫婦は、
・マイホームではなく収益不動産であること
・借入がまったくないこと
の2点がかなり珍しい。まず、なぜこのようなポートフォリオになったのか説明してもらった。Dさんによると、親から相続で1億5,000万円ほどの現金を承継した。その現金の運用先を探していたところ、中古ワンルームマンション投資に出会い、自分の運用ポリシーに合うと感じたため、大手販売会社から複数戸を次々と現金で買い進めていったそうだ。
<保有している収益不動産の概要>
・保有数は5戸ですべて東京都内の中古ワンルームマンション
・1戸目を購入したのは2017年で、以降は年に1回のペースで買い増し
・物件価格はどれも2,500万円前後
・借入はせずに全て現金購入
・5戸合計の実質平均利回りは3.5%ほど
・5戸すべて個人名義で所有
「借入する選択肢もあったが、金利負担がもったいないし、手元に現金があるのだから、現金で一括購入してしまおうと思った」(Dさん)という。
「収益不動産の現金購入」は経済的合理性が低い
実は筆者も複数の物件を保有する不動産投資家であるから、手離れがよく安定した賃料収入が発生する収益物件のありがたみは理解できる。特に1戸目で味を占めると、2戸目3戸目を続けて購入するのは「中古ワンルームマンション投資家あるある」だ。中古ワンルームマンションは(不動産業界のなかでは)お手頃な価格で購入することができるため、Dさん夫婦のような個人投資家には時々遭遇する。
そもそも論として「中古ワンルームマンションが投資対象として適切か」という議論もあるが、今回は「収益不動産の現金購入」にスポットを当ててみよう。結論として、筆者は「収益不動産の現金購入」は経済的合理性が低いと考えている(あくまでDさん夫婦に落とし込んだ場合の見解であり、現金購入を完全に否定するものではない)。
現金購入にはメリットもある。「収益不動産の現金購入」のメリットとしては、
・利息の返済やローンの手数料等がないため、借入する場合に比べて物件の購入総額が低くなる
・売主の安心感が強く、優先して買付できる可能性が上がる
・買付手続きのスピードが上がりやすい
・ローン購入よりも価格交渉力(値引き)が若干上がる
・現金保有時に比べて相続税評価額が大きく圧縮される
・再建築不可物件などローンが付きにくい物件も購入できる
などが挙げられる。ただDさん夫婦は、企業体力があり、ベーシックな物件を取り扱う大手販売会社から購入している。相続税評価額が下がることを除き、現金購入による大きなメリットを享受できているとは思えない。そしてDさん夫婦は40代であり、まだまだ相続税対策を考える年齢ではない。上記を総合すると、経済的合理性は低いと言えるだろう。