本記事は、Frank Figliuzzi氏の著書『FBI WAY 世界最強の仕事術』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています

FBIの採用システムは「大統領選挙」より厳格である

タクシー会社は2000人採用?「コロナ収束後の未来」へ人材の獲得競争過熱!
(画像=BlueSkyImages/stock.adobe.com)

国民が大統領を選ぶより、FBIが職員を選ぶほうがはるかに労力をかけていると私は考えている。FBIは民主主義を守る機関であるが、職員の選考方法が民主的である必要はない。採用プロセスは過酷で妥協を許さない。なぜなら目的が ―― いつも達成されるとは限らないが ―― 至高の人格を備えた人材を見出すことだからだ。

FBIに入ったばかりの頃、上司の1人がとくに規律を重んじる品格ある人物だった。ある地方局で1人のFBI職員がひどく低レベルの不正 ―― 使い込みだった ―― でつまみ出されたという珍しい報告を聞いたとき、その上司は私に向かってこう言った。「もし私が手錠をかけられて引っ張られるなら、少なくとも100万ドルはやってるな」。当時の100万ドルの価値は今よりもはるかに高く、FBIの金を100万ドル使い込むのは不可能だったと思う。上司が言いたかったのは、FBIは完璧な人間を採用しようとしているのではなく、道徳の基準値が非常に高く、その基準値を問題にしなければならないことはまずありそうもないという人物を採用しているということだった。

それは、人間には限界点がないという意味ではない。誰にでも限界はある。しかし、限界点はいろいろなポリシーや手続きで再設定したり補強したりできる。また、限界点は、警告を発することや報告義務を課すことで回避したり、少なくともそこに達するのを遅らせたりすることができる。組織は ―― 国でさえも ―― 限界点を超えそうな危機に至ったらベルが鳴る警報装置を作っておく必要がある。ただし、警報だけでは不十分だ。機関や企業、そして政府でさえ、生き残るためにはガバナンスと報告義務の仕組みが合意されていなければならないし、それが維持管理されなければならない。

実際、FBIが人を採用する仕組みは、国家が大統領を選出するよりも優れている。

とある刑事裁判の起訴状にトランプ大統領が「個人A」として登場したとき、人々は私に、大統領候補者や下院議員の身元調査は行っているのかと聞くようになった。なにしろ大統領や下院議員には機密情報取扱権限がある。だが、答えはノーだ。理由は、民主主義という私たちの国の価値観と関係がある。国民には当然の権利として、自分たちが選びたい人物を次期連邦議会議員・次期大統領に選ぶ自由があり、そのことに高い価値があるとアメリカ人は考えている。誰でも選挙に勝つだけで大統領の椅子に座れる、という考え方に誇りを持っているのだ。

ここで、大統領の椅子の前に、全分野身元調査という形の障害を設けたと仮定してみよう。その身元調査によって懸念事項が見つかり、候補者が〝トップ・シークレット〞取扱許可を得られなかったとすると、その時点で、アメリカの有権者ではなく役人たちが、誰が大統領になれて誰がなれないかを決めていることになる。本当にそんなことを望んでいる者は誰もいない。

この種のことを連邦議会議員や大統領候補に当てはめ、どう機能して、もしくは機能しないかを、私は最前列で見てきた。国の安全保障上の問題で、誰が大統領に立候補すべきでないとか、誰が辞めるべきだという問題について、FBIができることには限界がある。細かい機密情報など知らなくても茶葉で未来を占って、候補者が差し出すものを飲むかどうかを決めなければならないのは、たいてい有権者なのだ。そういうことだ。

FBI WAY 世界最強の仕事術
Frank Figliuzzi(フランク・フィグルッツィ)
FBIの特別捜査官として25年勤務。米国の主要都市でFBI地方局の管理職を務めたほか、FBI主任監査官に任命され、数々の難しい内部調査を指揮監督した。その後、本部の補佐官にまで昇進し、FBIの中でも名高い防諜部の責任者となった。フェアフィールド大学卒業。コネチカット大学ロースクール修了。ハーバード大学ケネディスクール、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院の修了生でもある。現在は、NBCニュースの国家安全保障アナリスト。リーダーシップやリスクマネジメント関連の講師としても人気を博している。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)