人的資本が注目されている理由3つ
人的資本への注目度が高まった背景には、社会的な3つの変化が関係している。
1.ダイバーシティ経営の推進
「ダイバーシティ:Diversity」は日本語で「多様性」という意味だ。企業経営においては、年齢や性別、人種、価値観などの人に関するさまざまな違いのことを指す。働き方改革の中でもダイバーシティの推進が明言されており、経済産業では以下のように定義される「ダイバーシティ経営」の推進を奨励している。
多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営
引用:経済産業省『ダイバーシティ経営の推進』
人材はもちろん、働き方の多様性も高まっている環境下では、社員それぞれの価値観や潜在能力を認識した上で、特性を活かした人材育成や配属が欠かせなくなっている。
2.キャリア形成の多様化
人材の流動性が高まる中で、キャリア形成の多様化も進んでいる。
日本ではこれまで終身雇用が一般的であり、総合職として幅広い業務を行うような「メンバーシップ型雇用」が採用されてきた。しかし、グローバル化やIT化など産業構造の変化により、専門的なスキルを保有する人材を採用する「ジョブ型雇用」が注目されるようになっている。
企業側も変化に対応する必要に迫られており、社内人材の育成だけでなく外部からの人材登用が一般化しており、人的資本の流動性も高まっていると言えるだろう。
社員それぞれが自分なりのキャリア形成目標を持ち、離職などが起こる中で、企業側は人的資本の重要性を意識して、採用や育成、後継者育成などにこれまで以上に向き合わなければならない。
3.ESG投資の世界的な広まり
ESG投資の世界的な広まりによって、企業価値の判断基準として無形資産にも目を向けられるようになった。ESGは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の3つから成り立っており、人的資本は「Social」に該当する。
投資家は財務諸表などで見てとれる財務以外の情報として、事業の将来性を左右する人的資本の可視化はもちろん人材戦略の開示も求めるようになっている。
ESG投資の普及や欧米での人的資本情報開示の流れもあって、東京証券取引所は、2021年に『コーポレートガバナンス・コード(CGコード)』を改訂しており、企業の人的資本情報の開示についての項目が新たに盛り込まれた。