人的資本経営とは何か

人的資本経営とは、企業の成長と競争力を高めるために、従業員のスキル、知識、経験、モチベーションなどの人的資本を最大限に活用し、戦略的に管理する経営手法だ。

経済産業省は「人材の価値を最大限に引き出す」というテーマとともに、人的資本経営のあり方を説いている。

人的資本経営では、人材育成はもちろん組織の最適化などといった人材戦略を策定、実施し、人的資本についてステークホルダーへ開示していかなければならない。

企業は、人的資本の価値向上が必須だ。そのためには、中核人材の育成方針を定めて社内の環境整備を行い、研修などの学びの機会を与えて定期的にフォローを行いながら成長を促すことが必要である。

人的資本経営の具体例

Googleは人的資本経営の成功例としてよく挙げられており、社員の成長と満足度を重視して以下のような取り組みを行っている。

・20%ルール

Googleの「20%ルール」とは、社員が通常業務時間の20%を、自身の興味や関心に基づくプロジェクトに充てることを許可する制度だ。このルールは、社員の創造性とイノベーションを促進するだけでなく、自分が学ぶべき項目の取捨選択などにも生かされている。

・OKR(Objective and Key Result)

OKRは、「Objective(目標)」と「Key Result(主要結果)」の略で、Googleが採用する目標管理手法だ。Objectiveは達成したい目標を設定し、Key Resultはその目標を測定する具体的な結果を示す。

・SIY(Search Inside Yourself)

Googleが提供するマインドフルネスと情動知能(EI)を高めるための研修プログラムだ。元エンジニアのチューデン・メン・タンが開発したこのプログラムは、社員のストレス軽減、集中力向上、リーダーシップスキルの強化を目指している。

・福利厚生とワークライフバランス

無料の食事提供、フィットネスセンターの利用、育児支援プログラムなど、従業員の健康と生活を支えるための福利厚生が充実している。

人的資本の価値を高める方法

人的資本は自社の持続的な成長に欠かせないため、人材戦略を策定して価値を高める必要がある。ここでは、人的資本の価値を高める方法を解説する。

現状分析をした上で人材戦略を策定する

まずは、自社人材のスキルレベルや適性を分析した上で、人材育成や人材配置といった人材戦略を策定する必要がある。人的資本の価値は人材育成だけでは高まらない。経営戦略という上位目標に合わせて、必要な人材を明確化して人材育成と効果的な人事を行うことが重要だ。

人材戦略に沿って人材育成に取り組む

人員の再配置だけで人的資本価値を高められるとは限らないため、中核人材など優先的に育成すべき人材を選定した上で、育成プランに沿って研修などを行う必要がある。

育成目標は自社の経営戦略によって異なり、経営革新に必要なスキル修得を目指すリスキリングはもちろんスキルの標準化を目標とすることもあるだろう。必要なことは、育成目標を明確にした上で、社員の適性に合わせた教育プログラムを選ぶことだ。

人材育成は研修などで学ばせるだけでは完結しない。新しく学んだスキルを発揮できる業務を担当させるなどしながら、定期的にフォローすることが重要だ。

社員のワークライフバランスを支援する制度の導入

人材育成だけでなく、社員のワークライフバランスを支援する制度の導入も欠かせない。フレックスタイム制度、リモートワークの推進、育児休暇や介護休暇の充実など、社員が仕事と私生活を両立できる環境を整備することが重要だ。

ワークライフバランスを整えることで、社員のストレスが軽減され、仕事に対する満足度とエンゲージメントが向上し、離職率の低下や生産性の向上につながる。

ダイバーシティとインクルージョンの推進

「ダイバーシティ(多様性)」と「インクルージョン(包括性)」の推進も、人的資本の価値を高めるための重要な手段だ。異なるバックグラウンドや視点を持つ多様な社員が活躍できる環境を整備することで、創造性と問題解決能力が向上し、企業の競争力を高められる。

具体的には、採用プロセスでの多様性の確保、インクルージョン研修の実施、社員の多様なニーズに対応する柔軟な働き方の導入などがある。