リスキリングが注目されている4つの理由

リスキリングが注目され始めたのには、4つの社会的な変化がある。

1.DXが世界的に進められるようになった

DX(デジタル・トランスフォーメーション)とは、デジタル技術を用いて経営革新を行い、他社に対しての競争優位性を確保することだ。

DXが世界的に進む中で、日本は既存システムの老朽化などによる「2025年の崖」の問題に直面しており、DX推進のためのIT人材不足という課題を抱えている。

IT技術の進歩に伴って消費者の購買行動も変化し、デジタル化への対応が遅れればそれだけ競合他社に遅れを取る可能性が高い。そのため、リスキリングによってデジタル化社会に対応した人材戦略の見直しの必要性が高まっている。

2.コロナ禍などの影響で働き方が変わってきた

働き方改革の施行によって、企業は多様な価値観を経営に生かす「ダイバーシティ経営」の推進を求められていた。企業は社内制度の見直しなどに着手し始めていたが、コロナ禍により外出が制限され、テレワークなど新しい働き方を急速に導入しなければならない事態となった。

自社の働き方が変わらない業界でも、取引先の働き方はもちろん顧客の購買行動などが変われば対応しなければならない。そのため、新しい働き方でもこれまで以上の価値を生み出すためのスキルを身につける必要に迫られている。

3.リスキリングに注力する企業が増えてきた

リスキリングに注力する世界的な企業が増えてきたことも、リスキリングが注目される理由の一つである。

Amazonでは、2025年までに社員10万人のリスキリングを進めるとしており、「アマゾン・テクニカル・アカデミー」や「マシン・ラーニング・ユニバーシティ」などを立ち上げている。またMicrosoftは、コロナ禍で発生した失業者の再就職支援のためにリスキリング講座を無償提供した。

4.リスキリングが政府によって推進された

日本政府はリスキリングを経済成長の鍵と位置付け、積極的に推進している。岸田総理は「日本リスキリングコンソーシアム」のイベントで、デジタル人材230万人育成を目指す「デジタル田園都市国家構想」を強調し、リスキリング支援を含む三位一体の労働市場改革を進めると述べた。

政府は、在職中の非正規雇用労働者向けのリスキリング支援も強化し、政策を大胆に進める決意を表明しており、注目を集める要因となっている。

リスキリングのメリット5つ

リスキリングによって、社員がこれまでにない新しい知識やスキルを修得することで、企業にとっては主に5つのメリットがある。それぞれについて解説する。

1.自社リソースの活用範囲が広がる

リスキリングによって社員のスキルが高まれば、これまで外部リソースを活用していた分野でも自社で対応できるようになり、コスト削減につながる可能性がある。

たとえば、社員のITスキルを高めることができれば、これまでSIerなどへの外部委託していたDX業務の割合を減らせるだろう。外部委託に頼ったままでは、システムが時代遅れになる可能性もあり、自社人材を育てることが人材不足解消だけでなくノウハウの蓄積にもつながるだろう。

2.自発的にスキルを修得する人材が生まれる

リスキリングによるスキル修得を支援するための制度を策定して実行すれば、自己啓発意欲の高い人材が生まれる可能性が高まるだろう。

リスキリングによって事業革新を進めるためには、企業側から社員に働きかけるだけでは限界がある。自己啓発意識が高い社員に対しては積極的にリスキリングの機会を与え、継続的にフォローアップしていくことが重要だ。

リスキリングを行った社員が成果を出して評価されれば、新たに自発的に学ぶ社員が増えていくだろう。

3.事業革新につながる新しいアイデアが生まれる

リスキリングによってスキルを修得した社員の習熟度が上がれば、新しい価値の創造や事業革新につながるアイデアが生まれやすくなるだろう。

リスキリングの目的の一つは、市場や産業の変化に適応しながら価値を創出し続ける能力を磨くことである。リスキリングはこれまで持っていた価値観の変革にもつながり、リスキリングを行った社員を積極的に新規プロジェクトに参画させることで、新しいアイデアが生まれる可能性が高まるだろう。

4.生産性の向上が期待できる

社員がリスキリングによって修得したスキルを使いこなすことで、より効率的に業務を行えるようになり、生産性の向上につながる可能性がある。

たとえば、これまでの社内稟議のワークフロー中に、書類を作成して上司の承認を受けるというアナログなタスクがあったとしよう。新しくシステムを導入して稟議書類の作成と回覧や承認をオンラインで行うことができれば、業務は大幅に効率化できるだろう。

リスキリングによって社員にツールの選定や導入ができるスキルを修得してもらい、裁量権を与えれば、業務革新を主体的に進める人材として活躍してくれるだろう。

5.社員のエンゲージメント向上につながる

リスキリングに取り組むことで社員のスキル修得を促し、キャリアの可能性を広げるための支援をことは、社員のエンゲージメント向上にもつながるだろう。社員のエンゲージメントが向上すれば、仕事に対するやりがいを感じるようになり、組織に対する貢献意欲の向上や離職率の低下が期待できる。