笑わないイメージのあの人も、じつはすごく笑っている

たとえば、明石家さんまさんは「踊る!さんま御殿!!」という超長寿番組を持っています。

テーマに合わせて多種多様なゲストがただひたすらおしゃべりするだけという、「ザ・バラエティ」な番組です。

この番組が成り立つのは、MCの明石家さんまさんが抜群の「聞く力」を持ち、心理的安全性を担保してくれているからです。

さんまさんはどんな人の話でも「ほんでほんで?」「それから?」といった感じで緊張をほどく相づちを入れ、相手の話をどんどん促していきます。

そして、相手の話が終わると、指し棒を司会台にバンバン叩きつけながら、大笑いするのです。

僕がこの番組に出演させていただいたときに実感したのは

「さんまさんは絶対に興味を持って聞いてくれる」
「さんまさんは絶対に笑ってくれる」

という安心感でした。

こうした安心感があるから、トークのプロではないスポーツ選手や文化人などでも、あの番組ではのびのびと自分の話ができ、スタジオ全体が盛り上がるのです。

松本人志さんの場合は「笑いのカリスマ」「笑いに厳しい人」というイメージを持っている人が多いかもしれませんが、じつはめちゃくちゃ笑い上戸です。

「人志松本のすべらない話」がわかりやすいでしょう。

あの番組では、そもそも出演者が「すべらない話をしなければいけない」というルールがあります。

たとえ出演するのが、トークが上手いお笑い芸人だとしても、それだけでめちゃくちゃハードルが高いシチュエーションです。僕も出演させていただくことがありましたが、ものすごく緊張しました。

それでも出演者がみんなしゃべれるのは、「松本さんは絶対笑ってくれる」という安心感があるからです。

あの番組の場合は松本さんだけではありません。

出演者全員が、話を始める前からニヤニヤと笑い、「お前の話を笑うよ」というメッセージを送ってくれているのです。

あの番組は「すべらない話」というより、「人志松本のすべらせない話」といってもいいでしょう。

「くりぃむしちゅー」の上田晋也さんは、もしかするとあまり「よく笑う」という印象を持っていない人が多いかもしれませんね。

怒りながら相方の有田さんやゲストにビシビシ鋭いツッコミを入れる人、という印象を持たれがちです。

でも、じつは番組をよく見てみると、上田さんはかなり笑います。

どの番組でも、ほかの出演者にツッコミを入れるとき、よーく見ると、じつはひとしきり豪快に笑ってから、そのあとに鋭いツッコミを入れるのです。

ただツッコミを入れるだけだと、次の人が話しづらくなる可能性がありますが、上田さんもやはり自ら率先して笑うことで、スタジオ全体に「心理的安全性」をもたらしているのです。

有吉弘行ひろいきさんもそうです。

有吉さんも、どちらかというとムスッとした顔をしている印象が強いかもしれません。

でも、たとえば「有吉の壁」という番組では、若手芸人たちのネタひとつひとつによく笑います。

この番組では、なんだかんだ有吉さんがよく笑ってくれるから、若手芸人たちも思い切って「ちょっと攻めたネタ」を披露できます。

正直、若手芸人の「ちょっと攻めたネタ」は、ふつうの人にはおもしろさがうまく伝わらないこともあります。

でも、そこで有吉さんが大笑いしている顔が画面に映し出されることで、視聴者の皆さんは「あ、このネタはおもしろいんだ」と理解して、一緒に笑えるようになるのです。

=超一流の会話力
渡部建
1972年、東京・八王子生まれ。1993年、神奈川大学在学中に高校の同級生であった児嶋一哉に誘われ、お笑いコンビ「アンジャッシュ」を結成。2003年、NHK「爆笑オンエアバトル」五代目チャンピオンに輝き、日本テレビ「エンタの神様」などのネタ番組では“コント仕掛け"のスペシャリストと呼ばれる。現在はコミュニケーションにした企業向けの研修などを積極的に行っている。
著書に『ホメ渡部!「ほめる奥義」「聞く技術」』(小学館)などがある。

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