本記事は、土井健氏の著書『テレビCMの逆襲 運用型CMで売上50億を2年で実現したテレシーCEOの実践広告論』(宣伝会議)の中から一部を抜粋・編集しています。

数億円の投資で実感したテレビCMのポテンシャル

数億円の投資で実感したテレビCMのポテンシャル
(画像=Orlando Florin Rosu/stock.adobe.com)

テレシーが初めてテレビCMを出稿したのは、2021年9月から11月にかけて。それ以降も現在に至るまで定期的に出稿して、自らが広告主となることでクリエイティブの違いによる効果などを検証しています。もちろんテレビCMによりテレシーの認知度を高めることが一番の目的です。

出稿してみて、本当の意味でテレビCMのポテンシャルを知ることになりました。特に大きかったのは、「テレビCMは思うほど高くない」と思えたことでした。長年にわたってネット広告、アドテクノロジー業界に携わってきた私は、多くのスタートアップ企業や中小企業の経営者と同じように「テレビCMは高額で、自分たちには手が届かない」と思い込んでいましたが、実は、リーチ単価で見れば決して高くはないのです。

一般的にテレビCMを使ったキャンペーンの媒体費は数千万円から億単位におよぶこともあり、投資額はかなり大きくなります。ただし、届く層の幅広さや数が他のメディアとはまるで違います。例えば、タクシー広告の場合1リーチあたりの単価は2〜4円ですが、テレビCMのリーチあたりの単価はタクシー広告の10分の1程度に過ぎません。タクシー広告のようにピンポイントで届くメディアではないものの、テレビを見ている人のうち数パーセントでも経営者やプロモーション決裁者がいれば十分投資に見合うと計算できますし、現実にそれくらいはテレビを見ている印象です。テレシーとしてより売上に直結する資料請求や問い合わせの単価で見ると、若干タクシー広告より高くはなりますが、1件獲得あたり数十万円半ばと、それほど悪くはありません。

地方局や深夜などのリーズナブルな枠は視聴者数が大幅に少なくなるものの、それで効果まで下がってしまうとは言い切れません。リーチ単価、顧客獲得単価という指標で見ると、深夜の世帯視聴率1%の番組周辺の枠だとしても、ターゲット層が相対的に多く含まれていれば、かなりコスト効率の良いプロモーションとなるわけです。テレビ広告のコスト面での印象としては、ネット広告と比べても大量かつ広域のターゲットに届くという認知面でのコスト効率はかなり良く、直接的に獲得できなかったとしても、最終的にそこに至る道筋がつくれるということで成功につなげることが可能です。

テレビの主な視聴者は、主婦や年配者などの決裁権を持たない人ばかりだから、BtoB企業がテレビCMなど出稿しても意味がない。そんな意見も多く聞かれますし、かつて、私もそうではないかと思っていました。

ところがこの点についても、自分たちで出稿してみて、必ずしもそうではないということが分かってきました。実際、テレシーのテレビCMを見たという経営者や企業のマーケティング決裁者からの問い合わせがかなり多いのです。

想定外だったこととしては、大手企業のミドルマネジメント層からの問い合わせが急増したこと。タクシー広告を経由した問い合わせのほとんどはスタートアップを中心とした経営層でしたが、大企業のミドルマネジメント層は思いのほかタクシー利用が少ないらしく、むしろテレビCMを見ているのだとわかりました。また、誰もが名前を知っている大企業の経営者からの問い合わせも複数ありました。確認すると、その方々は普段ハイヤーで移動しており、そもそもタクシーに乗らないということがわかりました。これも、自分たちが出稿したからこそ実感できたことです。

テレビCMに出稿すると、それと比例してネット広告の効果が上がることもあらためて確認できました。運用型テレビCMを既存のネット広告と競合させるような見方をすることがありますが、それらは決して敵対するものではないのです。

テレビCMを見て、指名検索数、サイトセッション数は顕著に上がりますし、放映中は、ネット広告のCTR(クリック率)、CVR(コンバージョン率)ともに従来の約1・3倍にまで増加しました。しっかりと「テレビCM放映中」とバナーやサイトに表記することで、テレビCMの直接効果だけではなく、ネット広告や他のメディア広告を後押しする効果もあるということです。

テレビCMには、その他の副次的な効果もあります。代表的なものとしては、テレビCMを放映しているということで信頼性や公共性が増すこと。それをきっかけに他社との協業や新規事業が立ち上がりやすくなるかもしれません。

また、人材募集をしているときには、顕著に応募者が増えます。具体的な業務内容を知らないような人も、テレビCMで目にしたことがあるということをきっかけに応募してくれることもあります。これはスタートアップの成長を後押しする大変ありがたい効果です。加えて、既存社員のモチベーションが上がり、社内の雰囲気が良くなるというメリットもあります。

こうした副次的な効果も含めると、テレビというのはコストに見合った効果が得られるメディアだと思うのです。

プロモーションの目的は認知度を高めること

大金を投じて自ら広告主となるのは、広告主だからこそ知りうる肌感などを理解したいという意図もありますが、1番の目的は、テレシーの認知度を高め、顧客を獲得していく必要があるからです。運用型テレビCMの事業者としては後発にあたるテレシーは、今なお認知度を高めるフェーズにあるとみなしています。そもそも「運用型テレビCM」を知らない人もまだまだ多いのが現状です。

テレシーでは、テレビCMの最大の目的である「認知度」に関するアンケート調査を定期的に実施しています。2022年7月に調査した「テレシー認知度調査データ分析報告書(第三回)」は回答者のほとんどがマーケティングに関与していない人でしたが、「運用型テレビCMを知っている」と答えた人は5%と10%にも満たず、「名前だけは知っている」という人を加えても20%強でしかありません。対して、「知らない」という回答は77%以上でした。

問い合わせを増やし、売上を伸ばすにしても、まず知ってもらわないことには始まりません。プロモーションの効果として、資料請求単価といった短期的な指標も重要ですが、テレシーが目指しているのは、GAFAのいない1・7兆円におよぶテレビCM市場で確固たるポジションを確立していくことです。となれば、中長期的な認知度がかなり重要になってきます。この認知度調査はその臨界点を把握するためのものであり、臨界点を超えるまではアグレッシブに広告投資をし続けるという覚悟を持って取り組んでいます。

テレシーがテレビCMの出稿戦略を考え実行する上で、これまでのネット広告での経験を存分に活かしています。ネット広告では、予約型の純広告と運用型でコストパフォーマンスの高いところに流せるアドネットワークという両面から考えます。予約した枠に決まった条件で出稿できる純広告は、広告料金は高いですがピンポイントで効果を狙えます。その一方で、複数の広告メディアを集めた配信ネットワークをパッケージとして効率よく出稿できるアドネットワークは、安いですが、必ずコアターゲットに届くとは限りません。とはいうものの、アドネットワークのほうが獲得効率が良かったということはよくあることで、安いから効果がないとは言えない難しさがあるのです。

それはテレビでも同じで、特定の枠に絞りすぎてしまうと、放映単価が上がりすぎて、結果として効果が得られないという恐れもあります。ですので、クライアントが仮にニュース番組を希望したとしても、ニュース番組の周辺のみを押さえるのではなく、バランスを考慮したメディアプランをお勧めしています。

また、トータルのプロモーション戦略としては、テレビCMに限定せず、満遍なく色々なメディアを活用することを重視していて、あえて一カ所に偏らないようにしています。

認知度アップ施策の一つとして、経営者やマーケターが集まるイベントにはどんどん協賛しています。テレビCMやタクシー広告を見て、テレシーのことを知ってくださっている方と、そういったイベントでお会いし、直接お話しすることでそこから受注に繋がることも多々あります。外部のセミナー登壇など、自分の顔を出したプロモーションもかなり積極的に行っています。

テレシーを「知っている」と答えた人に何を通して知ったかを聞くと、ほとんどが「テレビCM」と答えていました。

あるイベントでは大企業のミドルマネジメント層の参加者が多く、その層は意外とテレビを見ているということがわかりましたし、今すぐテレビCMを打つようなニーズが顕在化していないとしてもその方々はテレシーのことを既に知っているのですから、必要なタイミングでテレシーを思い出し、問い合わせてくれる可能性が高くなります。

テレビCMの逆襲 運用型CMで売上50億を2年で実現したテレシーCEOの実践広告論
土井健(どい・けん)
同志社大学卒業後、サイバードへ入社。モバイル広告代理店事業立ち上げに従事。2011年にECナビ(現CARTA HOLDINGS)に入社。グループ会社であるfluctに出向し、スマートフォンSSP「fluct」の立ち上げに参画。年間売上高20億から114億の日本最大級のSSPに育て上げ、東証一部(当時)上場に貢献。2016年fluct代表取締役を経て、2020年VOYAGE GROUP(現CARTA HOLDINGS)取締役に就任しテレシーの立ち上げに参画。2021年、テレシー代表取締役CEO(現職)。運用型テレビCM事業の成長を主導するとともに、タクシー広告、アドトラック、世界初のヘリコプター広告などのメディアにも注力する。

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