本記事は、安留義孝氏の著書『BNPL 後払い決済の最前線』(金融財政事情研究会)の中から一部を抜粋・編集しています。

BNPLとは何か

BNPL
BillionPhotos.com / stock.adobe.com

BNPLは成長期そして変革期

2021年9月、アメリカのPayPal(ペイパル)が日本の代表的なBNPLのPaidy(ペイディ)を27億ドル(約3,000億円・当時)で買収することを発表した。この大型買収は日本でも大きく取り上げられ、日本の一般消費者がBNPLという言葉を認知するきっかけとなった。そして2021年は、この買収だけではなく、国をまたいだBNPL関連の大きな買収や業務提携が発表された激動の年であった。

主な買収や業務提携だけでも、2021年8月にアメリカのSquare(スクエア。現・Block(ブロック))がオーストラリアのBNPLであるAfterpay(アフターペイ)を290億ドル(約3兆円・当時)で買収することに合意したと発表。同月に、アメリカのAmazonもBNPLのAffirmとの業務提携を発表した。そして、同年10月にはアメリカのStripe(ストライプ)とスウェーデン発のBNPLであるKlarnaが業務提携するなど、活発な動きが目立つ。

2020年からはじまったコロナ禍によるEC(電子商取引)の成長に伴い、BNPLは急成長を遂げたが、今、さらなる成長を目指した変革期を迎えている。

BNPL 後払い決済の最前線
『BNPL 後払い決済の最前線』より引用

コロナ禍で注目

ここで、改めて、BNPLとは何かということを明確にしたい。BNPLとは、“Buy Now, Pay Later”の頭文字をとった略語であり、日本語に訳せば、「今買って、後で支払う」ことができる決済手段のことである。コロナ禍において、ショッピングスタイルの変化に伴い急成長した決済手段であり、スウェーデン発のKlarna、オーストラリア発のAfterpay、アメリカ発のAffirm(アファーム)は世界的な企業へと成長し、新聞やテレビ、ウェブニュースなどで取り上げられる機会も増えている(図表2)。

BNPL 後払い決済の最前線
『BNPL 後払い決済の最前線』より引用

なお、BNPLと一言で語られるが、共通するのはクレジットカードではない「後払い」ということだけである。キャッシュレス決済の中心的な役割が、欧州ではデビットカード、中国ではコード決済と異なるように、BNPLも法規制や歴史、文化・習慣、国民性、そして金融サービスの普及状況(銀行口座保有率、クレジットカード保有率など)により、サービスの形態は国や地域ごとに様々である。当然、BNPL事業者ごとにサービス内容は異なる。

既にアメリカの多くのECサイトの決済画面では、VISA(ビザ)やMastercard(マスターカード)などのクレジットカードと並列に、Klarna、Afterpay、AffirmなどのBNPLが並ぶ(図表3)。アメリカなどの一部の国では、BNPLはもはや特別なものではなく、消費者はBNPLでの決済を当たり前のものとして選択できるのである。

BNPL 後払い決済の最前線
『BNPL 後払い決済の最前線』より引用

日常使いの決済手段として浸透している国も

海外で広がるBNPLだが、流行には地域的な傾向がある。

BNPLを牽引するKlarnaの地盤であるスウェーデンでは、ECサイトでのショッピングの決済において23%がBNPLを利用しており、もはやBNPLは日常生活には欠かせない決済手段といえる(図表4)。他の北欧諸国も、ノルウェー(15%)、フィンランド(12%)、デンマーク(8%)と、BNPLでの決済の割合は高い。また、Afterpayの地盤であるオセアニアをみると、オーストラリア、ニュージーランドはともに10%でBNPLが利用されている。そしてKlarnaやAfterpayなどのBNPLを牽引する企業がない国・地域でも、ドイツ(19%)、オランダ(9%)、ベルギー(7%)、イギリス(5%)がベスト10にランクインしている。このように、ベスト10に欧州の8カ国、オセアニアの2カ国がランクインしていることから、欧州、そしてオセアニアでは、既にBNPLが特別なものではなく、日常生活の決済手段としての地位を確立していることがわかる。

ちなみに、日本は3%とまだまだの状況で、インド、インドネシア、フィリピン、シンガポールも日本と同程度の利用状況にある。先進国だけではなく、アジアでもBNPLの普及ははじまっているが、成長の余地は残っているといえる。

BNPL 後払い決済の最前線
『BNPL 後払い決済の最前線』より引用

そして、BNPLでの決済金額をみると、アメリカがドイツに続く2位である。KlarnaやAfterpayはアメリカに進出し、アメリカローカルのAffirmなどの躍進もあるが、BNPLでの決済の割合は2%に過ぎない。アメリカのBNPLの成長も、まだまだこれからといえよう。

BNPL 後払い決済の最前線
安留義孝
日本アイ・ビー・エム株式会社 IBMコンサルティング事業本部 金融サービス事業部 アソシエイトパートナー。
1992年、明治大学商学部卒。メガバンク系シンクタンクなどを経て現職。各種団体での講演、専門誌への寄稿を通じて、世界各国で自らが体験した消費者視点のDX(Digital Transformation)の情報を発信。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます