本記事は、内藤 誼人氏の著書『「習慣化」できる人だけがうまくいく。』(総合法令出版)から一部を抜粋・編集しています。

Businessman hands working in Stacks of paper files for searching information on work desk in office
(画像=MP Studio / stock.adobe.com)

「とちり蕎麦」を準備

歌舞伎の世界では、セリフをとちると、共演の役者さんにおを配るというユーモラスな慣習があります。

歌舞伎役者もプロとはいえ、セリフを忘れたり、出番を間違えてしまったりすることは避けられません。そんなときには自腹を切って他の人にお蕎麦を振る舞うのです。

これは舞台での「とちり」(失敗)の責任をとることから、「とちり蕎麦」と呼ばれているそうです。こういう慣習はとてもいいことだと思います。

なぜなら、仮に失敗しても気にせずにすむからです。

共演者も、お蕎麦をおごられたら、「まあ、許してやるか」という気持ちになりますし、本人にとっても気がラクでしょう。

アメリカにあるメリーランド大学のライアン・ファーは、お詫びをするときには、何らかの「埋め合わせ」が含まれていると、他の人も許してくれることを明らかにしています。

埋め合わせがなく、ただ口先で「ごめん」とお詫びされても人は許してくれませんが、商品の割引であるとか、お詫びの品々をもらったりすると、すんなり水に流してくれるのです。

というわけで、みなさんも「とちり蕎麦」作戦を使いましょう。

「できるだけ急ぎますが、納品が遅れたら、お蕎麦をおごりますので許してください」
「商品やデザインが気に入らなかったら、お蕎麦をご馳走します」
「もしご迷惑をおかけしたら、お蕎麦を振る舞いますので……」

こんな感じのことをあらかじめ相手に伝えておくといいです。

「歌舞伎の世界では『とちり蕎麦』というものがあるらしいですよ」と説明をし、自分も同じようにご迷惑をおかけしたときには、とちり蕎麦を奢らせてもらいたいのだと相手に伝えておきましょう。

そういうクセ(習慣)を身につけておけば、仮に相手に迷惑をかけてしまっても、そんなに心配せずにすみます。

まだ相手に迷惑をかけていない段階なら、相手も埋め合わせの提案を受け入れてくれるでしょう。

仮に迷惑をかけたら、こんな感じで埋め合わせもいたしますと伝えておけば、相手も怒れません。

お蕎麦というのが粋です。高級な料亭で奢らなければならないとすると、相当な出費を覚悟しなければなりませんが、お蕎麦であれば、関係者全員にお詫びをしても、そんなに懐も痛みません。

面倒くさくならないように工夫をする

私たちは、何かをするときに面倒くさいと感じると、その行動をとらなくなります。

たとえば、ギターの練習をするのなら、いちいち練習のたびにギターケースから取り出す必要がないように、ギターをそのまま部屋に立てかけて置いておきましょう。そうすれば気が向いたときにいつでも練習できます。

毎回、練習をするたびにケースに入れて、さらにタンスや押し入れにしまおうとすると、次に練習しようかなと思ったとき、いちいちギターを取り出すのが面倒くさいと感じます。

そのうち、面倒だからといって練習もやめてしまうでしょう。

仕事を終えるとき、ファイルをキャビネットにしまうとか、資料を保管庫にしまおうとすると、翌日に仕事を始めるとき、必要なファイルなどをまず取ってこなければなりません。その点、やりかけの仕事をそのままデスクに出しっぱなしにしたほうが、翌日にすぐ仕事を再開できます。仕事の終わりに、きちんと整理整頓しようとするのはよい心がけですが、面倒くさいと感じるのなら、やりかけの状態のままにしておいたほうが、スピーディに仕事を開始できます。

もちろん、上司から「机の上をきちんと整理してから帰宅しなさい」と怒られたら、しかたがありません。

アメリカのテキサス大学のデベンドラ・シングによると、私たちは面倒なことは基本的にしたくないと感じるようです。面倒な作業をしないとおいしいクラッカーが食べられないという実験をすると、人はクラッカーをあまり食べないそうです。

面倒くさいことをしなければならないなら、おいしいクラッカーでも我慢したほうがいい、と感じるのでしょう。

新しい習慣を身につけたいのなら、まずは面倒な手間はすべて省くようにしましょう。料理でいうと、下ごしらえを終わらせておくのと似ています。下ごしらえをしておけば、スムーズに料理を作ることができます。

仕事をするとき、きちんと「根回し」をしておくことも、後々の面倒を省くうえで大切なことです。根回しをしておかないと、「そんな話を俺は聞いていない」と言い出す人がいて、こちらがやろうとしてくることに感情的に反対してくるかもしれません。

そうならないように、きちんと根回しをしておく必要があるわけです。

会議の前には、参加者全員に根回しをしておけば、会議もスムーズに進行します。

根回しをすることによって仕事はやりやすくなるものです。

「習慣化」できる人だけがうまくいく。
内藤 誼人(ないとう・よしひと)
心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長。
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。
社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。
趣味は手品、昆虫採集、ガーデニング。
著書に、『気にしない習慣よけいな気疲れが消えていく61のヒント』(明日香出版)、『世界最先端の研究が教える新事実心理学BEST100』、『世界最先端の研究が教えるすごい心理学』(以上、総合法令出版)など多数。その数は200冊を超える。

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