本記事は、西上 貴志氏の著書『心がほぐれる1分習慣』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
仕事は漠然とこなすのではなく、まずは「15分後の目標」を決める
比較的業務量が少ない時には順調にこなせているにもかかわらず、業務量が増えてくると途端にパフォーマンスが落ちるという経験をしたことはないでしょうか?
もちろん業務量が増える分、それに比例して処理に時間はかかるものです。ですが、それ以上になぜか作業効率が落ちてしまったと感じたことはないでしょうか?
そのような経験への答えとして、漠然とした状態で全てを終わらせようと考えるのではなく、できる限り細かく目標を区切って処理を進めることをおすすめします。まずは「15分後の目標」を設定し、その範囲の目標を達成できるように業務をこなしてみましょう。
それでは、到達目標を細かく刻むことで、なぜ業務効率が上がるのか考えてみましょう。
到達目標を細かく刻んで、目標達成を目指す手法を、スモールステップの原理と言います。大きな目標設定だけを行うと、その目標に圧倒されてしまい、途中で挫折する可能性が高くなってしまいます。小さく目標設定を行うことで、確実に小目標を達成し、最終目標に近づいていくことが、このスモールステップの原理を用いた手法となります。
スモールステップの原理は、アメリカの心理学者であるバラス・スキナーが提唱したプログラム学習と言われる学習法における、5つの原理のうちの1つです。
学習のステップを細かく設定することで、学習者の失敗をなるべく避けることが可能になるというのがその要点です。
スモールステップの原理を用いて目標設定することは、最終的な目標達成を得る以外にも、いくつかのメリットがあります。
まず、生産性の向上が得られやすくなります。目標が小さくなることで、1つ1つの課題の難易度が下がります。成功体験を繰り返すことでモチベーションが維持され、生産性の向上につながります。
次に、課題発見がしやすくなります。目標を細かく設定することで、自分自身の得意分野や苦手分野への気づきが得られやすいだけでなく、問題点に対してすぐにフィードバックすることも可能になります。
また、細分化した目標設定をすることで、目標を達成した際の小さなご褒美(報酬)を設定することができます。この小さなご褒美がさらなるモチベーションの向上を生み出し、良い循環を生むのです。
ここまで話をするとメリットばかりのように聞こえるかもしれません。ですが、本来スモールステップの原理を採用した理由は、最終目標の達成でした。
大事なことは、常に最終目標を意識しながら、目の前の小目標を達成していくことだということを、忘れないようにしましょう。
次にやることがわからない時、タスクを分解して「単純作業」にする
業務量が多くなってくると頭がまわらなくなり、プチパニックになってしまった経験はないでしょうか? 特に同時期の締め切りを複数抱えていたりすると、どうしても同時並行で作業を進めざるを得なくなり、結局どこから手をつけていいかわからなくなってしまいますよね。
業務効率を考えれば、同時並行で作業をすることはおすすめできません。業務は1つ1つを一点集中でこなしていくことが結果的には最も効率が良いのです。
タスクを丁寧に整理して、1つずつがなるべく単純作業になるように分解してみましょう。その上で業務を確実にこなすようにしてみましょう。
言い換えると、マルチタスクはやめて、シングルタスクで業務をこなしてみましょう。
では、なぜシングルタスクで業務をこなすことが最も効率的なのでしょうか?
マルチタスクとは、一度に2つ以上の作業を同時並行で行うことを意味します。ですが、マルチタスクで実際に作業ができていることは、極めて限定的であることがわかっています。マルチタスクの生産性についての研究は1960年代から行われていますが、複数の研究結果としても、生産性が下がることが指摘されています。
残念に感じるかもしれませんが、そもそも人間の脳はマルチタスクで処理を行えるようにはなっていないのです。
もしかすると、複数の業務を同時に処理していると主張する人はいるかもしれません。ただし、それは実際にはシングルタスクを頻回にスイッチして、擬似的にマルチタスクをこなしていると感じているに過ぎないのです。
マルチタスクが生産性を落とす理由は、実質的にシングルタスクの切り替えに過ぎないため、その切り替えのたびにパフォーマンスがリセットされてしまい、再びパフォーマンスが上がるまでの時間が非効率になってしまうからです。
それでは、シングルタスクで作業をこなすためには、どのような点に気をつければよいのでしょうか? まずは1つのタスクに取り組み出したら、他のことは一切気にせずに一点集中で進めていくことが重要です。
一旦業務を進め出すと、他の業務のことも気になってしまう移り気な性格の方もいるかもしれません。そのような時には、パーキングロットと呼ばれる思考を活用しましょう。
パーキングロットとは駐車場のことですが、要は目の前の業務と関係のない割り込みは、一旦傍においておくことを意味します。具体的には、情報はメモなどの外部装置に残し、目の前のタスクが終わった後に処理する習慣に切り換えましょう。
タスクによっては、他の人が関わっているなどの理由で、どうしても作業を中断せざるを得ない時もあるかもしれません。その場合でも、再開する時にすぐに戻れるように、再開しやすい状態に整理してから一旦中止するように意識してみましょう。
東京大学工学部卒。同大学院工学系研究科在籍中に医師を志し、北海道大学医学部医学科に入学。卒業後は精神科救急医療に従事し、外来診療だけでなく入院治療まで幅広く経験。延べ20,000人以上の診療経験を持つ。その中で早期介入・予防が患者・家族にとって最も負担軽減になるとの考えから、産業医活動にも幅を広げる。現在、大手コンサルティングファーム、 電機メーカー、製造業など約20社を担当する。並行して「あすかメンタルクリニック町田」「あすかメンタルクリニック大宮駅前」を開設。