本記事は、徳吉陽河氏の著書『結果を出す人はどんな質問をしているのか?』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

リーダー
(画像=Worrapol / stock.adobe.com)

求められる新しいリーダー像とは

時代が変われば求められるリーダーは変わっていきます。
では、今求められているリーダーとは、どのような人なのでしょうか。

私が「今の時代のリーダーの姿」だと感じているのは、「サーバント・リーダーシップ」です。サーバント・リーダーシップとは、マネジメントの研究や開発、教育に尽力したアメリカのロバート・グリーンリーフ博士が1970年に提唱した、「リーダーとなる人は、まず相手に奉仕し、そのあと、相手を導くものである」という哲学に基づくリーダーシップ論です。

日本では、「奉仕型リーダーシップ」や「支援型リーダーシップ」などとも呼ばれています。サーバント・リーダーは、チームメンバーへの奉仕や支援を通じて、周囲からの信頼を獲得します。
そして、チームをサポートしながら一緒に協力して目標へと向かう状況や環境をつくり出していきます。チームメンバーを尊重しながら褒めたり、気を使いながらチームが力を発揮できたりするようにサポートするリーダーです。

また、1つの現場で1人だけがリーダーというわけではなく、「それぞれが、それぞれの立場でリーダーシップを発揮できる」環境づくりが重要視されています。
このようなリーダー像は特に、「失敗が許されない」危機管理が必要な現場でも求められています。監督者も含めて、そこで働く全員が「当事者感覚」をもってリーダーシップを発揮できなければ、万一のミスに気がつけず、安全や人命を守ることができないからです。

一方で、キャリアやリーダーシップ論の大家であるエドガー・H・シャインが著書『謙虚なリーダーシップ』(英治出版)で説いた「ハンブル・リーダーシップ」も、昨今注目されるリーダー像です。ハンブル・リーダーシップは、「謙虚なリーダーシップ」と日本では訳されています。

ハンブル・リーダーシップにおけるリーダーは、最初に自分の弱点を認めてチーム内で共有し、そのうえでチームメンバーの弱点や多様性も理解して受容しようとします。お互いを受け入れて、補い合えるチーム構築を目指すリーダーです。

このようなリーダーシップは日本の社会において最も必要なリーダー像といえます。

リーダーが守るべきはメンタルヘルス教官から共感へ

この2つのリーダー像に共通するのは、「リーダーの共感力」です。
現代は、教官的なリーダーではなく、共感できるリーダーを目指すことが大切になっています。

ではなぜ今、共感的なリーダーが求められているのでしょうか。
それは、リーダーとチームメンバー、両方のメンタルヘルスが関わっています。
そもそも人には、心理的反発心(リアクタンス)があり、誰かに指示・命令をされるのが好きではないという性質があります。そのため指示・命令を受けることが、時に大きなストレスになってしまうことがあります。望まない指示や、威圧的な態度を伴った命令ならなおさらです。
だからこそ、職場をおおらかで働きやすい雰囲気にしてくれる共感力があるリーダーが求められているのです。

特に最近では、「コンパッション」をもったリーダーが求められています。つまり、コンパッション・リーダーシップです。
コンパッション・リーダーシップは、失敗した人たちに対して、自己批判を回避し、自己受容を促し、思いやりのある配慮をして、前に進めるように勇気づけを行えるリーダーです。
私の研究では女性のほうが得意な傾向があり、男性は苦手な傾向があります。コンパッション・リーダーシップは、「心理的安全性を担保してくれるリーダーシップ」にも関わります。

ですがこれも一元的ではなく、対話型のリーダーや逆境に対して立ち向かっていけるリーダー、組織が困難な状況になっても方向性を示していけるリーダーなど求められるリーダーは企業によって異なります。

しかし、どんな業界、時代にせよリーダーに必要な要素があります。
それは、「目標達成力」と「人間関係構築力」の2つです。
リーダーには、メンバーを1つの目標に向かわせるように道を示していく力と人間関係を円満に維持していく力が必要なのです。

さらにもう1つ重要なのが、リーダーの「自己効力感」です。

自己効力感とは、「目標を達成する能力を、自分自身がもっている」と認識する力です。ストレス耐性やレジリエンス、パフォーマンスに関わります。自己効力感は、アルバート・バンデューラというカナダの心理学者が提唱した概念です。
これを踏まえ、リーダーの自己効力感とはすなわち、「自分はリーダーとしてやっていける」という自信です。
自信があることで、チームが一致団結していけるように、周囲の人たちをうまく味方につけたり、目標達成に向かう推進力として巻き込んでいったりすることができます。
また、何か問題や障害が起きた際に、「克服することができる」という自信も、リーダーの自己効力感に含まれます。

『結果を出す人はどんな質問をしているのか?』より引用
徳吉 陽河
一般社団法人コーチング心理学協会代表理事・講師
一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会代表理事・講師
専門分野はコーチング心理学、ポジティブ心理学、キャリア心理学、認知科学など。資格は、コーチング心理士、公認心理師、キャリアコンサルタント、ポジティブ心理療法士、認定心理士(心理調査)など多数。クライアントやコーチ・カウンセラーがお互いに前向きになるようなウェルビーイングや能力の向上、自己成長の支援を行っている。さまざまな海外における研修や学会などに参加し、心理学、心理療法、コーチングを学ぶ。大学・看護学校などでの講師を経て、現在は現場に役立てるため、主に社会人に向けて「コーチング心理学」や「ポジティブ心理学」に関わる実践・研究、普及の活動を行っている。航空保安大学校(国土交通省)など、大学、高等学校、教育支援センターなどの教育関係、若者サポートステーション、就労支援施設、社会福祉協議会、リハビリテーションなどに関わる医療機関などの講師。外資系・国内大手製造業、販売・接客業、人材サービス業の団体などでの新人研修、管理職研修なども担当している。
海外の心理尺度の翻訳、実用的な心理テストや性格診断の開発をし、WEBサイト『ペルラボ』にて、心理学とデータ解析に基づいた心理尺度、ストレス研究などを行う。

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