特集「令和IPO企業トップに聞く 〜 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。
創業時からの事業変遷
——創業時からの事業変遷について、創業の思いから現在の事業の展開のところまでお聞かせいただければと思います。
株式会社アストロスケールホールディングス 代表取締役社長・岡田 光信氏(以下、社名・氏名略) 弊社は2013年に創業しました。私自身の経歴についてお話しすると、40歳を迎える前にいわゆる「中年の危機」に直面しました。何をすべきか分からず、自信を失う時期があったのです。転職を繰り返し、起業もしていましたが、友人に会うたびに「また新しいことをしているのか」と言われることが多く、当初はそれを良いことだと捉えていました。しかし、ふと気づくと、一つの会社で長く勤め上げている人々が羨ましく感じるようになっていました。
そんな折、15歳の時に参加したアメリカの宇宙飛行士ジュニアプログラム「スペースキャンプ」で、日本人初の宇宙飛行士・毛利さんに書いていただいた「宇宙は君達の活躍するところ」という手書きのメッセージのことを思い出しました。そのことがきっかけとなり、宇宙に関連する仕事に携わろうと決意しました。
いくつか宇宙関連の学会に参加し、その時ホットなトピックを調査していたところ、「スペースデブリ」、つまり宇宙ゴミの問題に出会いました。宇宙はこのまま放置しておくと持続的に利用できなくなることを知り、2013年4月にドイツで開かれたスペースデブリ専門の小さな学会に出席しました。その場で、誰もこの問題の解決策を持っていないことを知ったのです。
それを受けて、私は宇宙ゴミを掃除する事業を始めることを決意し、その1週間後に会社を登記しました。これがアストロスケールの始まりです。
——アストロスケールの事業において、ターニングポイントとなる出来事があれば教えていただけますか?
岡田 宇宙のゴミ(スペースデブリ)は地球の周りを大量に飛び回っていますが、その速度は秒速7キロから8キロにも達します。これは砂浜に捨てられた空き缶のゴミとは異なり、非常に速いスピードで移動しているため、大きな問題を引き起こします。しかも、狭い軌道上を周回しているため、そのゴミをどうやって捕まえるかが大きな課題でした。
さらに、技術的な解決策がないこと、事業モデルが確立されていないこと、そして規制やルールが整備されていないことが、当初からの3つの大きな障壁でした。私たちはこれらの障壁を乗り越え、デブリ問題に取り組むことで宇宙の持続可能性(スペースサステナビリティ)を実現することを目標としています。
——具体的にどのように技術や事業モデルを開拓していったのですか?また、ルール作りについても教えていただけますか?
岡田 技術に関しては、創業当時私は全くの素人だったため、まずは学会で手に入る論文集をプリントアウトして精読しました。その内容をもとに、宇宙ゴミを掃除できる衛星をどう作るかを考え始めました。そして、論文の著者たちに直接連絡を取り、1年半かけて3回、世界中を回るワールドツアーを行いました。最初はただ教えてもらうだけでしたが、3回目の頃には「これならいけるかもしれない」という手応えを感じました。これが2014年の秋のことです。そして、チームを編成し、資金を集め、工場を作っていく具体的な計画を立てました。
実際にシリーズAの資金調達で770万ドルを集め、工場を設立し、初期のチームを組織しました。そこからは技術開発だけでなく、ビジネスやルール作りも並行して進めました。現在では600名ほどの規模となり、私たちの接近捕獲技術も証明され、世界を驚かせています。
ルール作りに関しては、例えば昨年の広島で開催されたG7サミットで、スペースデブリが首脳宣言に盛り込まれ、「これ以上デブリを増やさないこと」や「減らす努力をすること」が課題として認識されました。創業時と比べると、本当に大きく変化しました。
上場を目指された背景や思い
——上場の大きな目的として資金調達が挙げられるかと思いますが、副次的なメリットや考えていることはありますか?
岡田 いろいろと申し上げることはできますが、私の視点では、上場において特に重要なのは「開示」です。私たちが取り組んでいる事業を、どのような言葉で表現し、どのように説明すれば理解していただきやすいか、これが非常に大切だと感じています。
私たちの事業は主にBtoBであり、特に世界各国の政府機関との取引が多いため、これまではそのような取引先に適した言語で説明すれば問題ありませんでした。しかし、上場に際し、一般の個人投資家や短時間しか面会できない機関投資家に対して、どう説明すれば情報の非対称性をなくせるかという点は非常に良い勉強になりました。
今後の事業戦略や展望
——今後の事業展開や戦略、展望についてもお伺いしたいと思います。
岡田 私たちは「宇宙のロードサービス」を目指しています。例えば、高速道路が整備され、車が増えると、当然渋滞や事故も増えますよね。しかし、その際に「運転をやめましょう」とは言いません。代わりに、法改正や道路交通情報管理センターのようなモニタリングシステムを導入し、故障車を助けるサービスを整えることで、持続可能な高速道路網を作り上げてきました。
宇宙も同じような状況だと思っています。宇宙の「高速道路」は衛星軌道ですが、実はここも非常に混雑しており、故障したり使われなくなった衛星がたくさん飛んでいます。実際に衝突も起きており、その破片がさらに別の物体に衝突することもあります。宇宙は広大ですが、この問題が顕在化するのは時間の問題です。
だからこそ、デブリを増やさずに減らす努力が不可欠です。また、まだ使えるものは修理したり補給したりして、新たに打ち上げることなく活用できるようにしていくことも重要だと考えています。
——宇宙空間の渋滞や事故が解消された場合、私たちにどのような世界が訪れると考えられますか?
岡田 まず、宇宙が使えなくなった場合どうなるか、少し話をさせてください。実際、私たちは日々の生活の中で、宇宙のデータに依存しています。交通、天気予報、通信、放送、災害監視、農業、ロジスティクス、金融など、さまざまな分野で衛星が重要な役割を果たしています。もしこれらの衛星が使えなくなれば、私たちの生活は数十年前の水準に戻ってしまうかもしれません。
宇宙ゴミ(スペースデブリ)は数十年から数百年もの間、宇宙を飛び回り続け、衝突するとさらに破片が生まれます。衛星の打ち上げ数も急激に増加しているため、対策が一刻も早く必要な状況です。
私たちが目指している「宇宙ロードサービス」が広く浸透すれば、宇宙空間の渋滞や事故を解消し、持続可能な宇宙利用が実現できるでしょう。私たちは、主要技術の実証に成功したことで、国連をはじめ世界中の多くの国々から注目を集め、話を聞かせてほしいという依頼が増えています。今こそ行動を起こさなければ、間に合わない時期に来ています。私たちは引き続き、この取り組みを進めていくつもりです。
今後のファイナンス計画や重要テーマ
——今後のファイナンス計画や重要テーマについてお伺いします。次の公募投資の時期や外部調達は、どのように活用していこうかと考えていますか?
岡田 今回の資金調達により、計画上はブレイクイーブン(損益分岐点)までの資本の確保はできたと考えています。そのため、現時点では新たな資金調達を行う予定はありません。間接金融に関しては、銀行とは良好な関係を構築させていただいており、プロジェクトの内容に応じて、ローン組成の相談は適宜行っています。
ZUU onlineのユーザーに⼀⾔
——最後にZUU onlineのユーザーに一言、メッセージをお願いできますか?
岡田 私たちアストロスケールは、宇宙環境を守るために技術開発に取り組んでいます。今後も引き続き研究開発を進め、持続可能な宇宙利用の実現に貢献していきたいと考えています。
- 氏名
- 岡田 光信(おかだ みつのぶ)
- 社名
- 株式会社アストロスケールホールディングス
- 役職
- 代表取締役社長兼CEO