本記事は、小田島 春樹氏の著書『仕事を減らせ。限られた「人・モノ・金・時間」を最大化する戦略書』(かんき出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

「経営者なしでも回る職場」を実現
予測を見える化したことで、今ではメンバーがデータをもとに判断し、行動しています。
おかげで私が不在でも、日々のオペレーションは何の問題もなく回るようになりました。大きな予算を必要とする場合などは相談がありますが、基本的には現場が判断して動いてくれるので心強い限りです。


徹底した省力化と属人化の解消を図ったことで私の働き方も変わりました。
経営者がいなくても回る現場が実現したことで、時間の余裕が生まれたことが何より大きな変化です。
今では私が「ゑびや大食堂」に顔を出すのは月に一回程度。
現場にいなくても状況は常にデータで把握しているので経営に支障は出ません。
おかげで「収益性を向上させる戦略を考える」「新しい事業にチャレンジする」など、会社の生産性を高める取り組みに専念できるようになりました。
現在の私は日本各地や海外を飛び回り、経営に役立つ情報や事例をリサーチしたり、さまざまな人と会って事業のヒントをもらったりと、アクティブに動き回っています。
例えば、重量センサーによる自動発注のアイデアは、ある展示会でマット型重量センサーを扱う会社の社長と出会ったことがきっかけです。
目の前の業務に追われていたらこんな発想は生まれなかったでしょう。
「発想力は移動距離に比例する」と言われますが、その通りだと思います。
「面倒くさい」をなくしたい一心で始まったデジタル化の取り組みは、経営者になった当初から思い描いていた事業の多角化にもつながっています。これについては5章で詳述します。
これからの時代に求められている能力とは
AIを活用した独自の来客予測システムまで開発したと聞くと、「誰にでもできることではない」「環境に恵まれていたのでは?」と思われるかもしれません。
でも、決してそんなことはありません。
今は誰もが新しいスキルや知識を習得しやすい時代です。
デジタルの知識やツールの使い方についても、大半のことは本やYouTubeなどを見れば無料で学べます。私もわからないことがあると動画を見て勉強していました。
しかも技術革新が進むにつれ、一般の人でも使いやすいツールが開発され、専門家でなくても最先端のテクノロジーを活用できるようになります。
私たちが開発に使ったパブリッククラウドもそうです。
最近では一般の人が手軽にAIを活用できるようになりました。
自動発注システムを作ったときも、難しいプログラミングもAIが全部やってくれました。私がしたことといえば、「どのような作業をどう効率化したいのか」を指示しただけです。
デジタル化を進める際に重要なのは、知識そのものより「テクノロジーを使って何がしたいのか」を明確に伝える力です。
自分が何を目指し、現状をどう変えたいかさえはっきりしていれば、解像度の高い的確な指示が出せます。あとの作業はAIやプロの技術者に任せればいいのです。
今の時代に変化を起こすために必要なのは「想像力」です。
たとえ自分たちが置かれた環境が厳しくても、「こうすれば今より状況が良くなるのではないか」とイメージし、未来への可能性を見出す力が求められます。
想像する前から「どうせうまくいかない」と思い込み、やる前にあきらめてしまう。
それでは戦わずして負けるようなものです。
「自分は文系だから理数系のことはわからない」
「デジタルに精通した人材がいなければDXなんてできるはずがない」
そう決めつけてしまったら、その時点で不戦敗です。
もちろんやってみたら失敗することもあります。
今思えば、私たちも的外れな方法を試してみたり、作ったものが結果に結びつかなかったりと、悪戦苦闘を続けてきました。
それでも歩みを止めなければ、必ず前進できると信じて挑戦し続けました。
だからこそ、「世界一IT化された食堂」と言われるところまでたどり着けたのです。
つまり、改革とは、「やるか、やらないか」。
どちらを選択するかは経営者やリーダーのマインドにかかっています。

1985年、北海道生まれ。三重大学地域イノベーション学研究科博士。三重県伊勢市にある妻の実家の老舗店を受け継ぎ、「ゑびや」代表に就任。AIなどを用いたデータ分析を取り入れ、経営改革に取り組む。
2018年、株式会社EBILAB(エビラボ)を立ち上げ、来客予測を主軸としたデータ分析システムのサービス開始。マイクロソフト「People who inspired us」にて事例が紹介されるなど、世界からも注目を浴びている。
2022年春、地域の課題解決をテーマに三重大学地域イノベーション学研究科の博士号取得。
2019年、船井財団グレートカンパニーアワード、2020年、第3回日本サービス大賞「地方創生大臣賞」受賞。2024年、関西DXアワードなど、受賞歴多数。
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