本記事は、小田島 春樹氏の著書『仕事を減らせ。限られた「人・モノ・金・時間」を最大化する戦略書』(かんき出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

働き方を変えても「連帯感」は取り戻せ
デジタル化やデータ分析などの話をすると、なかには合理的でドライな職場をイメージする人もいるようです。
しかし、目指しているのはその真逆をいく組織です。
今では「お互いを認め、肯定する組織」になりつつあると感じています。
かつての日本企業は帰属意識の高い組織づくりを重視し、人を大事にする経営が行われてきました。帰属意識の高さは、成長を支えた原動力だったはずです。
しかし、バブル崩壊以降、企業は合理化を優先し、人のつながりや連帯感を重んじる組織文化は失われていきました。
もともと日本は「地域の人達とのつながりが強い」「災害発生時にも助け合う」「農業では他の人が困っていたら助け合う」といった自助共助の文化だったのではないでしょうか。
私はあえて古きよき時代の日本企業にならった組織設計を意識しています。
最近はDX推進やAI活用が盛んに叫ばれ、企業の経営者も「デジタル化さえ進めれば経営はうまくいく」と思いがちです。
しかし、それはあくまで経営の一要素です。
それだけが突出しても商売や事業は回りません。
なかでも「人」は、これから生産年齢人口が減っていく日本において、ますます貴重になっていきます。
そのことをどの経営者もあらためて肝に銘じるべきではないでしょうか。
いなくても現場は回るなら、経営者は何をする?
現場の働き方が変わったことはすでに紹介しましたが、経営者である私自身の時間の使い方も大きく変わりました。
「ゑびや」は年中無休で営業していますが、私は1年のうち150日は日本各地を飛び回り、40日から50日は海外に滞在する生活を送っています。
たとえ海外にいたとしても、店舗の来客数や売上などのデータはリアルタイムで共有できますし、現場のメンバーともチャットでコミュニケーションしたり、オンラインでミーティングできたりします。日本を長く離れても心配ありません。
地球上のどこにいても、ホテルの部屋をオフィス代わりに仕事ができます。
これも経営者なしで現場が回る仕組みがあるからです。
国内のさまざまな場所に足を運ぶのは、新規事業の立ち上げや新たなビジネスへの参入を目指すために、情報収集や人脈づくりなどを積極的に行っているためです。
また、最近は講演の依頼が増え、デジタル&データ経営で会社を変革した体験を話しています。
海外では、各国の経済やビジネスについてリサーチしたり、現地の人たちにヒアリングしたりして、レポートにまとめています。これは十代のころから行っており、気になることがあれば現地へ足を運ぶのが習慣でした。いわば私にとってライフワークです。
最近ではエジプトやトルコに滞在し、通貨安の国における経済の実態を調査しました。
エジプト・ポンドやトルコリラは大幅な下落が続いていたため、人々の仕事や生活にどのような影響があるか。これらを知ることで円安が続く日本の未来を見通す材料になると考えたからです。
海外へ行くのは仕事のためというだけではありません。
遊びや趣味で楽しんでいるように見えることも、最終的には商売につながっています。
むしろ、仕事とプライベートの線引きはあまりないような気がします。
例えば、私は釣りが好きで、海外でもよく楽しみます。
世界の海を回るうちにあるアイデアが膨らみました。
「魚釣りのスタンプラリー帳をつくって販売したら、釣り愛好家に喜ばれるんじゃないか」といったものです。これが、ゆくゆくは新事業の種になるかもしれません。
また、実は釣りはセルフブランディングにも役立っています。
ビジネスの世界でつながりを増やすために複数のSNSを使っていますが、魚釣りの話題は企業経営者からの反応がよいのです。それこそ、巨大魚を釣り上げた写真を投稿したときなどは大きな反響があります。実際にお会いしたときにも話題に上がったりします。
講演やメディア露出だけでなく、「釣り」によってより認知度を高めることができるのです。
それがきっかけで、さらに講演を依頼されたり、会社の顧問になって欲しいと頼まれたりと、仕事につながることも多々あります。
それに、私があえて楽しんでいる写真を投稿することで、「経営者がいなくても本当に会社は回るんだな」と実感してもらえる効果もあるようです。
経営のやり方にはいろいろありますが、「やらなくていいこと」を見つければ自分自身の知見を広げ、新しいアイデアの原石を見つけることができるのではないかと思っています。
仕事を減らして生産性を高め、現場のメンバーも経営者も時間と心にゆとりを持つ。
そうすることで会社を発展させ、自分自身の人生も楽しむことができる。
そのことを証明し続けたいと思っています。

1985年、北海道生まれ。三重大学地域イノベーション学研究科博士。三重県伊勢市にある妻の実家の老舗店を受け継ぎ、「ゑびや」代表に就任。AIなどを用いたデータ分析を取り入れ、経営改革に取り組む。
2018年、株式会社EBILAB(エビラボ)を立ち上げ、来客予測を主軸としたデータ分析システムのサービス開始。マイクロソフト「People who inspired us」にて事例が紹介されるなど、世界からも注目を浴びている。
2022年春、地域の課題解決をテーマに三重大学地域イノベーション学研究科の博士号取得。
2019年、船井財団グレートカンパニーアワード、2020年、第3回日本サービス大賞「地方創生大臣賞」受賞。2024年、関西DXアワードなど、受賞歴多数。