◉日本の富裕層の「価値」先駆者、上杉鷹山


米沢藩の藩主、上杉鷹山は日本の優れた知事であり、経営者でもありました。彼は富裕層に生まれ、小さな藩の藩主になったあとで「日本一貧乏」と言われた米沢藩にやってきました。弱冠19歳の若者が、土地勘も地縁もない悲壮感漂う地で幾多の事業をやり遂げたのは稀有なことだったのでしょうか。

彼の行った大事なことは「投資」だったということです。富裕層ではなく、急にお金が出来た人々は「投機」に夢中になる傾向があります。投資は10年、20年と先を見据えて「お金」提供し、事業を行ってもらうのです。事業は人ですから、人にお金をかけるということは、人に期待をかける、ということでもあります。
鷹山のアイデアのひとつに「笹野一刀彫」があります。木の枝から鷹を彫り上げるだけの、単純な商品ですが、その緻密な彫り方に「商品性の価値」を見出し、新しい産業が生まれていきました。

欧州の王侯貴族が名だたる音楽家を招聘し、年金を与え作曲させた名曲が、今日世界中でクラシック音楽というジャンルを花開かせています。そして、日本の富裕層は様々な文化に接し、その価値を見出す「先駆者」であったのですから、日本でのクラシックホールの多くは「個人資産」で作り上げた小ホールであるのです。
しかし、残念ながら富裕層にはその反対に、こんな話もあります。フランスの画家、ルノワールの名画を所有していたオーナー企業の大社長が「自分が死んだら、名画とともに棺桶に入れて欲しい」と遺言を残したことで、騒動になったのです。

名画の価値は「広く多くの人に感動を与えること」で、ますます高められます。欧米の美術館では、名画を飾る場所に「所有者の記名」があるところがよく見られます。寄贈、寄付ではなく「無償で貸し出す」という行為も意義がある、ということです。


◉新しい投資で、楽しい富裕層の形を


最近よく聞かれるようになった「投資」に、個人企業へのファンドがあります。これは、一般的に銀行や証券会社で売られている金融商品ではなく、地域ファンドと呼ばれる市民活動の形です。
これは、NPOの形を取っているところが多いのですが、伝統産業の酒、和菓子、櫛、箸、椀といった工芸品や伝統食品の経営に資本参加することで、永続的な価値商品の生産、販売とそのための施設維持を図るものです。中には、「もの言わぬ」株主となって経営を支援する形もあります。

富裕層の楽しみは、こうしたいろいろな「その道のプロ」と接することで、富裕層でしか得られないつきあいが出来ることにあります。季節が移り変わることで、花鳥風月が楽しめる日本には、それだけの歴史が積み重なっています。歴史を知り、自分を知る。そして自分が得られる喜びを、投資という形で実践する。

楽しくある富裕層の形こそ、社会に価値のある富裕層でありえるのです。

BY E.D