忘れられつつある「ニュー・ノーマル」の概念

リーマン・ショックの翌年である2009年、米国西海岸を本拠地とする世界最大の債券運用会社であるピムコ社(PIMCO: Pacific Investment Management Company, LLC)は、世界経済が構造的な変化を迎えていることを指し、「ニュー・ノーマル」という概念を提唱した。

同社が中長期的な投資戦略を策定する目的で開催している年次経済予測会議において同年発表され、そのピムコ社の指摘は、「リーマン・ショックから立ち直った後の国際経済は、以前の経済とは別物になっている」というものであり、加えて新たな常態(=ニュー・ノーマル)として「米国経済を中心としたアングロサクソン・モデルの求心力の低下」「先進国経済から新興国経済へのシフト」といった予測を挙げた。

だが、その言葉自体は、ギリシャ問題を焦点として依然くすぶる欧州の財政懸念、ブラジルやロシア・中国といった新興国経済の失速、結果それらからもたらされた米国経済のひとり勝ち状態とドル全面高から、今となっては忘れられつつある。


米金利、FRBが望む正常化は困難

かたや「金利の正常化」を目指している米国の中央銀行FRB(連邦準備銀行)は、本年中にも政策金利の引き上げを開始するものと予測されているが、今回の利上げサイクルのピークはどのようなレベルとなるであろう?果たして潜在的にFRBメンバーが意図していると思われる「正常化=オールド・ノーマル」への回帰はありえるのであろうか?

米国の政策金利であるフェデラル・ファンド金利(FF金利)は、近年でいえば2000年(ITバブル時)の6.5%、および2006年から2007年(サブプライム住宅ローン危機前の好景気時)にかけての5.25%でピークを打っている。

長期債(10年)利回りと比較してチャートを見てみると、FF金利と長期金利は奇しくもほぼ同様に呼応して高値(債券価格は安値)を付けていることがわかる。また、長期間にわたるチャートで見てみると、長期金利がはっきりと低下トレンドを形成していることが一目瞭然だ(下図グラフ)。

FF金利 (3)

これらの傾向においては、単に米国経済が、というよりもグローバルな経済が成熟する過程で引き起こされている構造的なものであり、もはや旧態の金利レベルに戻ることは望むべくもないこと、ピムコ社の予測した姿とは異なっているものの、「ニュー・ノーマル」の概念自体は正しかったことを示唆しているといえる。


短期金利予測から形成される長期金利

金利・債券市場全体を把握するために、短期金利(=中央銀行が政策として誘導できる金利)を起点として長期金利の期間構造を考えてみよう。

10年物金利とは政策金利目標であるFF金利をベースとした翌日物、つまり1営業日あたりの金利が向こう10年間にわたり連続して実現される予測値の市場参加者平均である、と大ざっぱに言い換えることができる。

例えば、当日から翌日、翌日から翌々日、翌々日から3営業日後…と10年間にわたり延々と続く1営業日ごとの先々の金利(フォワード金利)の連続複利が10年物金利である、ということになる。もちろん市場参加者のコンセンサスとして形成されている市場取引価格は、常時変動していることを忘れてはいけない。


政策金利ピークは長期金利レベルで頭打ち

その点を踏まえたうえで、米国利上げサイクルのピークを予測すると、市場で取引されている長期債の利回りが大いに参考になるであろう。

すなわち、現在の1%台の10年債、2%台の30年債は、やはり「今回の利上げサイクルのピークは3%には届かない」ということの強い示唆なのではないだろうか。

シカゴ先物取引所では、FF金利の先物が取引されており、その価格を見てみると、市場参加者がどのくらいの利上げを予測しているか(実際はそのコンセンサス)が比較的簡単に価格から逆算できる。

それによると市場予測FF金利は、(2015年4月27日の終値より)2015年末0.33%、2016年末0.975%、2017年末1.525%となっており、金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)メンバーの予測値からは大きく下方に乖離していることがわかる。

中国経済においては、習近平政権は最近、高成長から中程度の成長へ移行した中国経済の姿を「新常態」と表現している。

これは、今まで常に7%台後半以上の成長が必要とされてきた中国経済も、もはや経済成熟に伴い成長率が鈍化することは自然であるとする考えである。世界第2位の経済大国のこのような状況を踏まえると、米国のみが単独で(FRBが目指す)金利正常化の道を歩むことは大変難しいものに思える。

つまりは正常化できないことが新たに常態化する、やや皮肉な意味においても「ニュー・ノーマル」は非常に的を射たものになりつつあるといえるのではないだろうか。

(ZUU online 編集部)

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