◉初値・株価の正当性を考えるための財務分析
個別製品の成長性については各自の判断によるので、ここでは企業の財務状況・収益性のみを判断してみましょう。
基本的には「 初値はいかに?ジャパンディスプレイのIPOに投資するなら株価は長い目で見るべき? 」で分析した方法を踏襲しますが、利益率ではなく利益の時系列変化で見て、
○安全性:当座比率・キャッシュフロー
○収益性:利益・EV/EBITDA比率
で財務を評価します。財務評価する上で数多くの指標がありますが、財務のポイントを効率良く捉える上では以上の4項目が適していると思われます。
●安全性
【当座比率】
当座比率は、短期の債務支払い能力を測る上で最も重要な指標と言って良いものです。当座比率を計算する為に、下図3の日立マクセルの連結貸借対照表を見てみましょう。
図3:株式会社日立マクセルの連結貸借対照表
出典:日立マクセル株式会社有価証券届出書
当座比率は以下のようにして計算できます。
当座比率(%) =当座資産 ÷ 流動負債 × 100
で計算出来ます。ここでの当座資産は貸借対照表の「資産の部」の「流動資産」のうち、直ぐに現金化しやすい「現金及び預金」・「受取手形及び売掛金」・「有価証券」を指しています。以下のように、流動資産全てを分母とする
流動比率(%) = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100
もありますが、流動資産の中にも在庫や原材料など直ぐに現金化する事が難しいものもあり、流動比率が高くても実は短期の債務支払い能力が低い事があります。(ここでは、たな卸資産などが該当します。)この事より、当座比率を使います。
当座比率を計算すると、
平成24年3月期当座比率 = (5171 + 22972 + 1300) ÷ 26014 × 100 = 113.18%
平成25年3月期当座比率 = (5163 + 23644 + 1375) ÷ 24806 × 100 = 121.67%
となり、2期続けて100%を超える当座比率となっており、短期の債務支払い能力は高いと言えるでしょう。
【キャッシュフロー】
図4のキャッシュフロー計算書を見てみましょう。キャッシュフローは、経営を維持する上で最も重要なポイントの一つです。極端な話、「債務が多くても資金が回っていれば倒産しない」からです。
図4:株式会社日立マクセルの連結キャッシュフロー計算書
出典:日立マクセル株式会社有価証券届出書
平成24年3月期と平成25年3月期の変化を見ると、
営業活動によるキャッシュ・フロー:87.38億円 → 4.91億円
投資活動によるキャッシュ・フロー:231.80億円 → 6.82億円
財務活動によるキャッシュ・フロー:△207.59億円 → 7.52億円
フリー・キャッシュ・フロー(営業キャッシュフロー+投資キャッシュフロー):319.18億円 → 11.73億円
となっています。
〈営業活動によるキャッシュ・フロー〉
営業キャッシュフローは、本業による資金の増減を示すものになります。仕入債務94.21億円を支払った事が営業キャッシュフローのマイナスに大きく寄与しており、営業キャッシュフローの増加は小さくなっていますが、一方で売上債権の回収がプラスに大きく寄与しています。
〈投資活動によるキャッシュ・フロー〉
投資キャッシュフローは、資産の売買による資金の増減を示すものになります。平成24年3月期が大きくプラスになっているのは、その他(関係会社預け金の払戻約200億円)があったからです。
設備投資を積極的に行っている企業は投資キャッシュフローがマイナスになる事が多いですが、いずれの年度もプラスになっています。平成25年度は有価証券等を売却しつつ、その範囲内で設備投資を行っている傾向があります。設備投資の為の資金が潤沢というわけではなさそうです。
〈財務活動によるキャッシュ・フロー〉
財務キャッシュフローは、資金調達・返済による資金の増減を示すものになります。平成24年3月期に200億円の配当金を支払っている事が分かります。平成25年3月期は債務が増加し、財務キャッシュフローがプラスになっている事は気になる点です。
〈キャッシュフローの総括〉
フリーキャッシュフローが極めて少なくなっています。前節で短期の債務支払い能力は高い事が分かりましたが、それまでにキャッシュを多く吐き出してきた傾向があり、有価証券の売却がフリー・キャッシュフローの確保に寄与する面も大きく、営業キャッシュフローが小さいのは問題でしょう。有利子負債が少なく、資金繰りはうまくいっていますが、機動的な経営を行うにはフリーキャッシュフローが不足しています。
●収益性
図5は日立マクセルの連結損益計算書、図6は平成26年3月期の業績予想です。
図5:株式会社日立マクセルの連結損益計算書
出典:日立マクセル株式会社有価証券届出書
図6:株式会社日立マクセルの平成26年3月期業績予想
出典:平成26年3月期の業績予想について (日立マクセル株式会社)