【利益】

利益率を見る前に、売上高と利益の動向を見てみましょう。図7は、日立マクセルの連結売上高・営業利益・経常利益・当期純利益の推移を示しています。但し、平成26年3月期は予想値です。

日立マクセル9

図6:日立マクセルの売上高・利益推移

出典:平成25年3月期までは日立マクセル株式会社有価証券届出書、平成26年3月期は日立マクセル株式会社「平成26年3月期の業績予想について」

注:左軸は経常利益・当期純利益。右軸は連結売上高。単位はいずれも(百万円)。

これを見ると、売上高は減少しているが、当期純利益が改善している傾向が分かります。但し、営業利益の予想は73.72億円ですが、日立マクセルは上場廃止中の平成23~25年の営業利益を公表しておらず、今回の有価証券届出書にも記載していない事を見ると、好意的に解釈できません。

平成21年3月期の営業利益は△23.36億円、平成22年3月期は0.57億円であり、今回も記載していない所を見ると、あまり本業が芳しくないと推定されるからです。これは、前節で営業キャッシュフローがあまり多くない所を見ても、平成25年3月までは本業が上向きであるとは言え、あまり本業が良くなかったのでしょう。

平成26年3月期の業績予想は良いですが、大きく円安であった1年を考慮すると、この単年度だけで収益性が良いとは言えず、為替レートに左右されやすいかもしれません。

【EV/EBITDA倍率】

EV/EBITDA倍率は、企業の買収資金を何年で回収出来るかを示す指標です。ここでは、

EV = 時価総額 + 有利子負債 - 現金及び預金
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費

で計算しましょう。有利子負債は短期借入金から16.33億円、現金及び預金は236.44億円です。発行済み株式は5334万1500株で想定株価は2070円なので、推定時価総額は約1100億円です。よって、EVは約880億円です。

予想営業利益は73.72億円、減価償却費の予想はされていませんが、25.46億円・23.74億円と推移しており、同程度だとすると、EVITDAは約100億円といったところでしょうか。

これにより、推定EV/EBITDA倍率は約7.3となり、想定株価は妥当な水準だと言えます。


◉投資目線での日立マクセルの評価

ここまでを整理すると、

・事業分野が多岐にわたっており、成長性のある技術の判断が重要になる

・資金繰りは安定しているが、キャッシュを多く吐き出してきている

・今年度の営業利益は大きいが、前年度までは芳しくないと予想され、為替レートの影響を受けやすい可能性がある

・想定株価は適正である

となります。キャッシュフローの動向と日立マクセルの公表姿勢を見る限り、前年度までの本業は芳しくない可能性が高く、想定株価は妥当なラインとは言え、円高に振れれば業績が悪化し、株価が値下がりする可能性があるでしょう。現状の経営状況では、大きな利益を得る事は難しいかもしれません。

但し、様々な事業分野について技術を持っており、それらの可能性を評価出来る投資家ならば投資対象として面白いと言え、その意味では夢のある銘柄でしょう。


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参考文献

[1] 日立マクセル株式会社有価証券届出書(東京証券取引所)(PDF)
[2] 日立製作所(2009)「日本のリチウムイオン電池事業の取り組み―グリーン社会の創出をめざして―」(PDF)
[3] 日立マクセル株式会社「平成26年3月期の業績予想について」(PDF)

BY たけやん:経済学修士号取得後、株価推定事業・研究を行っている

Photo: 日立HPより