トマ・ピケティ
(写真=GettyImages)


注目集める格差

■火付け役となった「21世紀の資本」

先進国の所得分配の不平等化についての議論が盛んになっている。きっかけとなったのは、フランスの経済学者 トマ・ピケティ が、「LecapitalauXXIsiecle」を出版したことだ。英訳「CapitalintheTwenty-firstCentury」はアメリカでベストセラーとなり、瞬く間に世界中で読まれるようになった。

邦訳の書名は「21世紀の資本」(みすず書房)となっているが、マルクスが書いた「資本論」の原題はドイツ語で「DasKapital」、英語にすれば「TheCapital」なので、ピケティの本は「21世紀の資本論」と紹介されることもある。

しかし、この本は社会主義や共産主義といったイデオロギーの主張ではなく、膨大な歴史的データを綿密に積み上げて、これまでに無い長期の所得分配の動きを実証し、そのメカニズムについての仮説を提示したものだ。

これだけ大きな話題となった理由は、二つあると考える。

第一は、欧州だけでなく米国や日本も含めて多くの国で所得格差が拡大しているという事実を実証してみせたことだ。

第二には、その原因について資産の収益率(r)が経済成長率(g)を上回ることによるという仮説を提起し、「r>g」という単純な関係として提示したことだ。

税務統計を使ったデータから所得と資産の分配に関する分析を行い、資産格差が所得格差を生み、それがまた資産格差を拡大させる、という格差拡大のメカニズムを示した。欧州の格差は、第1次世界大戦から1970年代までの間に縮小したが、1980年以降は再び拡大して100年前の状態に近づいており、米国の所得の集中は100年前を少し上回る程度だという指摘は、世界中で議論を呼んでいる。

■1%に集中する所得

OECDは2014年5月に、過去30年間にOECD加盟国のほとんどで超富裕層とでも呼ぶべき「最も豊かな1%の人たち」の税引き前所得の割合が上昇したという報告書を提出した。超富裕層の所得の割合の上昇は、英国、カナダ、オーストラリアなど英語圏の国で大きい。中でも米国では、上位1%の人たちの所得は1981年に全体の8.2%だったが、2012年には倍以上の20%に高まっている。(図表1)。

上位1%の所得のシェア

上位1%への所得の集中は、リーマンショック直後には若干改善したが、先進国経済が回復すると、再び集中の動きが目立っている。金融危機後の2011年に燃え上がった「ウォール街を占拠しろ」という抗議運動は、1%の人達に富が集中している格差社会への抗議でもあった。

米国経済は全体として見れば経済成長が続いてきたから平均値では豊かになったはずだが、OECDは米国では所得が最も少ない10%の層の人たちの収入は、2000年から2008年の間に実質で10%減少したと指摘している。日本は欧米諸国に比べてはるかに所得分配が平等だと言われることが多いが、このデータから見るとOECD諸国の中ではほぼ中央に位置していて、富裕層への所得集中の度合いが非常に低いとは言い難い。