日本経済への含意
■各国で異なるメカニズム
先進国の多くで所得格差が拡大しているとは言っても、欧州と米国とでは仕組みがかなり異なっている。欧州では元々それぞれの世帯が保有している資産額に大きな格差があって、資産から生まれる財産所得の格差が毎年の所得の格差を生んでいる。
ピケティは、フランスの場合には1914年ころから第2次世界大戦直後まで、2度にわたる大戦や大恐慌による企業の経営破綻、第二次世界大戦後に行われた大企業の国有化で高額所得者の財産所得が減少したことが急速な所得格差の縮小の主因だとしている。
資本収益率が経済成長率を上回っているのが常態なので、経済が発展していくと富を持つものはますます豊かになり、働くことではなかなか豊かになれないという問題が深刻化していく。
一方、米国ではトップの企業経営者や金融専門家が著しく高額の所得を得ることで所得の格差が生まれている。保有している資産から得られる財産所得だけではなく、経営能力によるところもある。
たとえばFacebookのザッカーバーグや、Appleのジョブズといったスーパースター経営者たちだ。米国の高額所得者の職業を見ると、1979年から2005年の間に非金融企業の経営者の割合は若干減少し、金融業や不動産業の経営者の割合が上昇している(図表2)。
グローバル化の動きが、金融業や優秀な企業経営者の価値を高め所得を高いものにした一方で、大多数の人々は海外の安い賃金で働く労働者との競争がより直接的なものになって所得が低迷したということもあるだろう。
米国では高等教育を受けた人達は経済情勢が変化して求められる職業能力が変化しても対応できるのでグローバル化で所得が高まったが、そうでない人達は持っている能力が急速に陳腐化してしまい所得が低迷するという学歴による所得の格差拡大が問題とされることも多い。
しかし、上位1%、0.1%という少数の人達への所得の集中は、教育の差では到底説明ができない。グローバル化は製造工程のみならず企業の事務・管理業務にも及び、それまで安定した職業だと考えられていた、いわゆるホワイトカラーの事務・管理職の人々の賃金の低迷をもたらし職業を不安定にしている可能性もある。