■日本経済はどうなるか

日本の不平等拡大は、人口の高齢化が大きな要因であるとされている。日本では、「資本主義の終焉と歴史の危機」で水野和夫・日本大学教授が主張しているように金利の低下が顕著で、ピケティのいうように収益率が低下しないことよりも、収益率が低下してしまったことが問題であるように見える。

また多くの企業の経営者の所得も米国のような高額のものではないので、著しい格差を生み出す要因とも見えない。日本銀行による超金融緩和政策のためでもあるが、長期金利が0.3~4%台という低水準に低下した日本では、単純な資産の蓄積が格差の拡大の原因とは考えにくい。

ピケティが指摘しているように、高額の資産を保有している人達と少額の資産しか保有していない人達では資産の収益率が大きく違うということは、日本でも可能性がある。資産の少ない人達は資産を分散してリスクを回避することができないので、資産運用でリスクを取って高い収益を目指すことが難しい。

上位1%の資産内容は分からないので一般的な世帯の貯蓄の内容からの類推になるが、家計調査(貯蓄・負債編)で日本の家計金融資産をみると、資産残高が少ない世帯では、資産は元本が保証される預貯金などの安全なものが中心になっているが、こうした資産は現状では利回りが極めて低い。

一方、資産を多く保有している世帯ほど、リスクは大きいが高い収益率が期待できる株式などの有価証券の保有が多くなる傾向があり、より高い収益を得ている可能性が高い(図表3)。

貯蓄高

日本では、長年デフレに悩まされていたため株価が低迷し金利も低水準を続け、財産所得は低迷した。しかしデフレ脱却が実現すると、欧州のように資産格差と所得格差のスパイラル的な拡大というメカニズムが働くようになる可能性がある。資産が所得を生み、資産と所得が相互に格差を増幅するということが続けば、相続を通じて親から子へと格差が固定されてしまうことになる。

所得格差のない社会が理想的とは思えないが、著しい格差は犯罪の増加や集団の対立から社会を不安定にするおそれがあり、格差の固定が閉塞感を生むことは否めない。格差の議論は今後も人々の注目を集めるだろう。

<参考文献>
Bakija, Jon et al, (2012), 「Jobs and Income Growth for Top Earners and the Causes of Changing Income Inequality: Evidence from U.S. Tax Return Data」, Williams College
Brynjolfsson, Erik and Andrew McAfee (2011), 「Race Against the Machine」, Digital Frontier Press ,(邦訳「機械との競争」日経 BP 社)
OECD (2014), 「Tackling high inequalities creating opportunities for all」
OECD (2014), 「Focus on Top Incomes and Taxation in OECD Countries: Was the crisis a game changer?」
Piketty, Thomas, (2014), 「Capital in the Twenty-First Century」, The Belknap Press of Harvard University Press (邦訳「21 世紀の資本」みすず書房)
Rajan, Raghuram and Luigi Zingales (2004), 「Saving Capitalism from the Capitalists」,Princeton University Press
Solow, Robert(2014),「Thomas Piketty Is Right」, New Republic,
水野和夫(2014)「資本主義の終焉と歴史の危機 」(集英社新書)

※本稿は2015年2月13日「基礎研レポート」を加筆・修正したものである。

櫨 浩一 (はじ こういち)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部

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