企業と消費者の心理を支える政策対応を

マイナス成長のもう一つの理由は、米中の景気回復が鈍く、輸出の回復ペースが弱いことだ。4〜6月期の実質輸出は前期比-4.4%と、昨年7〜9月期から今年1〜3月期までの同+1.8%、+2.8%、+1.6%の堅調な回復にブレーキがかかってしまった。4〜6月期の実質輸入も前期比-2.6%と弱かったが、4〜6月期の実質GDP前期比に対する外需の寄与度は-0.3pptと、2四半期連続(1〜3月期同-0.1ppt)で成長率を下押した。

輸出と輸入の両建てで貿易が拡大することが企業収益の源であるが、中国をはじめとしたグローバルな経済の不透明感が貿易の拡大の障害になっているようだ。1〜3月期に前期比+2.8%と大きく伸びた実質設備投資が反動で4〜6月期に同-0.1%とマイナスになったことも成長率を下押した。

1〜3月期の実質在庫投資のGDP前期比寄与度は+0.5pptと大きかったが、4〜6月期にも同+0.1pptとプラスが続いた。マーケットには在庫調整が4〜6月期以降の成長を下押す懸念があった。しかし、持続的な経済成長、そして物価・コストも持続的に上昇することを企業が予測し始めれば、在庫管理システムの更なる効率化を考慮しても、在庫投資の変化はプラスになるはずである。まだ在庫投資の変化はマイナスであり、在庫投資は引き続き成長の押し上げ要因になると考える。

4月の新年度入り後、企業の経営計画は、設備投資も含め、積極化していることが確認された。失業率が自然失業率である3.5%を下回り始め、総賃金の強い拡大が消費を押し上げる動きが強くなってくるだろう。これまでの原油価格の下落により、消費者物価が伸び悩むことが、新年度入り後の賃金上昇と合わさり、消費者の実質所得の回復感を強くしていくだろう。

そして、米国の景気回復がより力強くなっていくことにより、輸出はより堅調な回復をみせていくと考える。企業・消費活動は回復し、実質GDPは7〜9月期には前期比プラスに復調すると考える。

安倍首相は、2017年4月の消費税率引き上げまでに日本経済を確実にリフレイトするという決意と成長戦略の遂行を表明している。政府・日銀のリフレへのコミットメントは強く、4〜6月期のマイナス成長を受けて、追加金融緩和と景気対策が実施される可能性は高まったと判断する。

日本経済はデフレ完全脱却まで残り1マイルに来ているが、4〜6月期のマイナス成長や不安定な海外経済など、その道はぬかるんでおり、しっかりとした政策対応で、企業と消費者の心理を支え続けることが重要である。2015年後半からは、消費税率引き上げにより一時的に衰えたデフレ完全脱却に向けた動きは最加速し、賃金上昇と強い名目GDPの拡大により、そのリフレの力を実感し始めることになるだろう。

大規模な金融緩和により長期金利が抑制されている中で、名目GDPの本格的な拡大が始まっている。名目GDP成長率(膨張の力)が長期金利(抑制の力)をバブル期以来はじめて持続的に上回るようになっており、本格的なリフレ局面の入り口に来ていることを、マーケットはまだ過小評価していると考える。

原油下落などの交易条件の大幅な改善とデフレ圧力の緩和により4〜6月期のGDPデフレーターは前年同期比+1.6%と上昇している。4〜6月期の名目GDPは前期比0.0%(1〜3月期+2.2%)と、実質GDPより堅調な結果であり、リフレの継続を示している。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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