消費税率引き上げを含む財政緊縮はかなりのリスク

財政赤字が巨額で長期金利が高騰しかねないという懸念が杞憂に終ってきた理由は、トータルレバレッジがゼロで、日本のネットの資金需要が消滅(政府が独占的なネットの借り手)していたからだ。これは国内にネットの資金需要がないことを意味し、財政ファイナンスが容易で国債市場が安定を続けるには好都合であるが、貨幣経済(マネー、クレジット、名目GDP、株式時価総額、不動産価格など)が拡大することが困難であることを示す。

企業のデレバレッジの緩和とアベノミクスや円安に刺激された企業活動(投資、雇用、賃金など)の回復により、企業貯蓄率は急速にゼロに向かって低下し、内需回復とデフレ緩和の動きが強くなってきている。さらに、震災復興とアベノミクスによる機動的財政政策により、財政が中立的な水準より拡大してきた。結果として、トータルレバレッジがここ十数年で初めて持続的に拡大し(マイナス方向)、ネットの資金需要が復活し、資金がしっかり循環を始め、貨幣経済が拡大を始めている。

この貨幣経済の拡大の力が、デフレ脱却に失敗してきた前回までの景気回復との大きな違いであり、今回のデフレ完全脱却の可能性を著しく高めているものである。トータルレバレッジが拡大しても、日銀が金融緩和によりそれを間接的にマネタイズしてしまえば、国債需給はあまり変化せず、長期金利は大きく上昇しない。

デフレ完全脱却の可能性を著しく高めているネットの資金需要はGDP対比4%程度、20兆円程度であり、日銀のマネタリーベースの増加幅(80兆円)と比較するとかなり小さく、長期金利の抑制は困難ではない。ネットの資金需要の復活による貨幣経済の拡大と期待インフレ率の上昇、そして日銀の金融緩和による長期金利の抑制が、実質長期金利をバブル崩壊後はじめて持続的に低下させ、そしてマイナス化させ、企業活動とマーケットを刺激し、デフレ完全脱却の可能性を著しく高めている。

財政赤字が巨額で長期金利が高騰しかねないという過度な警戒感により財政を緊縮にしてしまえば、ネットの資金需要は再び消滅し、金融緩和が継続したとしても、アベノミクスのリフレ効果が消滅してしまう。ネットの資金需要が存在しない状態での量的金融緩和の効果は限定的であり、企業がまだ貯蓄超過である以上、消費税率引き上げを含む財政緊縮はかなりのリスクとなってしまう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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