名目GDPが縮小していることを最大の問題と考え、まずその拡大を目指すリフレ政策であるアベノミクスの方向性は正しいと考える。成長戦略・構造改革の成功、イノベーション、生産性の向上、企業の競争力・収益力の向上、家計の所得・生活水準の向上、財政再建、そして社会の安定、即ち日本経済の復活には、名目GDPが拡大していることが必要条件であると考えられるからだ。
名目GDPが拡大しているほうが、イノベーションや生産性の向上につながる企業のリスクテイクは容易であり、成長戦略・構造改革の推進に不可避に伴う負担も軽減することができるし、もちろん総賃金の拡大にともなう消費者心理の改善にもつながる。
リフレを経ず、復活へひとっ飛びには行けないことが、デフレという改革の負担の大きい環境で政策を失敗し続けたこの20年間の教訓だろう。もちろん、リフレ政策による名目GDPの拡大が、日本経済の復活の十分条件ではないことは、リフレ政策を主張するエコノミストの誰もが認識しているだろう。
しかし、必要条件である以上、名目GDPの拡大にまず取り掛からない限り、日本経済の復活は期待できない。
名目GDPの拡大は物価上昇も意味し、デフレ完全脱却とほぼ同義である。現在、名目GDPが拡大を始め、名目GDP成長率(膨張の力)が国債10年金利(抑制の力)をトレンドとして上回り始めている。バブル期以来はじめての大きな局面変化となっており、膨張の力が抑制の力を上回り日本経済のリフレイトする力が強くなることは、その必要条件がようやく満たされつつあることを意味する。
必要条件が満たされ、日本経済の復活につながる成長戦略・構造改革の成功、イノベーション、生産性の向上、企業の競争力・収益力の向上、家計の所得・生活水準の向上、財政再建、そして社会の安定への挑戦を、これから本当の意味で始めることができるようになろう。日本経済の復活の必要条件を十分条件に変えることができるかどうかは、日本国民が衰えておらず、不断の挑戦心と創造性をまだ持ち合わせているのかどうかが左右することになる。
アベノミクスの成果は二階建て
実質GDP成長率のトレンド(潜在成長率の上昇)、即ち日本経済の復活はその結果である。アベノミクスの成果は二階建てになっており、一階は名目GDPの拡大とデフレ完全脱却、そして二階は成長戦略の実行を含め実質GDP成長率の持続的拡大(潜在成長率の上昇)となり、一階部分が完成しなければ、二階部分の建設の動きは見えない。
リフレ政策であるアベノミクスと本来無関係である拙速であった消費税率の引き上げや、輸出環境の弱さという外部要因により、実質GDPの振幅は大きい。一方、アベノミクスが始まった2013年以降、名目GDPは持続的にしっかり拡大し、一階部分の完成に向けた成果はあらわれている。
一次評価は実質ではなく名目GDPの拡大であり、アベノミクスは順調である。4-6月期の実質GDPは前期比年率-1.6%と弱かったが、名目GDPは同+0.1%と1-3月期の同+9.0%の拡大の後としてはしっかりしている。まだ時間のかかる実質GDP成長率の持続的拡大という二階部分の完成が見えないからといって、アベノミクスの進展を過小評価してはいけない。
そして、昨年4月の消費税率引き上げによる消費者心理の萎縮や中国経済をはじめとした外部環境の不透明感など、デフレ完全脱却という1階部分の完成に向けた残り1マイルの道はぬかるんでいるようだ。それほど追加的なコストが大きくないにもかかわらず、最後の政策の一押しを怠ってぬかるみに足をとられ、デフレ完全脱却を失敗し続けた歴史があることを、政府・日銀はしっかり意識し、財政による景気刺激策や追加金融緩和を果断に実行し続ける必要があるだろう。
1階部分を早く完成させて、より挑戦的な2階部分の建設に進む必要がある。
会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト
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