日本経済の見通し
◆デフレはほぼ脱却も、実体経済は低調
安倍政権発足後、異次元緩和によって円安が大きく進んだこともあり、日本経済が約15年にわたって苦しめられてきたデフレからは脱却しつつあるが、実体経済はバブル崩壊後の長期停滞から完全に抜け出せたとは言い切れない。
2013年度の実質GDP成長率は2.1%と潜在成長率を大きく上回ったが、2014年度は消費税率引き上げの影響もあって▲0.9%のマイナス成長となった。消費増税の影響が和らいだ2014年度後半は2四半期連続のプラス成長となり景気は持ち直しつつあったが、2015年4-6月期の実質GDPは前期比年率▲1.2%と再びマイナス成長となり、景気は足踏み状態となっている。
消費税率引き上げ後の実質GDPを大きく押し下げているのは言うまでもなく個人消費だ。2014年度の実質民間消費は前年比▲3.1%の大幅減少となり、これだけで実質GDPは▲1.9%も押し下げられた。ただし、消費税率引き上げがなかった1990年代後半以降の約15年間についても個人消費は低迷を続けており、この主因は所得の伸び悩みにあった。家計の可処分所得の伸びは1980年代の年平均6%程度から1990年代が2%程度、2000年以降はほぼゼロ%と低下しており、これにほぼ連動する形で家計消費支出の伸びも鈍化傾向が続いている(*1)。
企業収益は2012年後半以降の大幅な円安に2014年秋以降は原油価格の下落という追い風が加わったことで、製造業、非製造業ともに過去最高を更新している。しかし、企業の人件費抑制姿勢は根強く、賃金は伸び悩みが続いている。企業に滞留する余剰資金を家計に還流させることにより所得の増加を伴った消費の回復を実現することが重要である。
◆潜在的な需要の掘り起こしが重要
需要と供給のミスマッチも日本経済の停滞が長期化してきたことの一因と考えられる。たとえば、マクロ的には需要不足の状態が続いている一方で、医療、介護、保育などの分野では満たされない需要が多く存在する。需要の大きい分野に十分なサービスが提供されていないため、本来あるはずの需要が顕在化せず、不必要な分野に過剰な供給力が残っている。このため、マクロ的な需給バランスは需要不足・供給過剰の状態が続いている。
日本は高齢化の進展によってサービスへの需要が高まっており、企業もサービス産業を中心に高齢者の需要掘り起こしに向けた取り組みを進めている。しかし、現時点では高齢者の潜在的な需要に十分に対応できているとは言えない。OECD加盟国(先進国)について、高齢化率(65歳以上人口比率)とサービス産業比率(GDPに占めるサービス産業の割合)の関係を見ると、高齢化率が高いほどサービス産業比率も高いという傾向がある。
日本のサービス産業比率は先進国の平均よりは高いものの、高齢化が先進国で最も進んでいる一方で、サービス産業比率は米国、英国、フランスなどよりも低い。このことは、高齢化の進展に伴い需要はモノよりもサービスにシフトしているにもかかわらず供給側がそれに対応しきれていないことを意味している。
また、個人消費に占めるサービス支出の割合は上昇傾向が続いているが、そのうち娯楽・レジャー・文化、外食・宿泊といった選択的サービス支出の割合は近年むしろ低下している。内閣府の「国民生活に関する世論調査」によれば、今後の生活で重視したいものとして、「衣・食・住」や「自動車、電気製品などの耐久消費財」よりも、「レジャー・余暇生活」を挙げる人の割合のほうが高い一方、現在の生活に対する満足度は「レジャー・余暇生活」が最も低くなっている。
高齢化の進展や家電製品の普及に伴う家事時間の減少などから、余暇(3次活動)時間が増えていることもあり、趣味、娯楽、旅行、スポーツなど選択的なサービス支出に対する潜在的な需要は大きく増えている。需要の拡大が期待される分野に供給力をシフトしていくことにより、潜在的な需要が喚起されるとともに、潜在成長率の上昇につながることも期待される。