◆女性、高齢者の労働参加拡大が鍵
日本経済の長期低迷の要因として人口減少、少子高齢化の影響が挙げられることが多いが、経済成長率の低下に大きく寄与しているのは一人当たりGDPの伸び率低下のほうである。日本の実質GDP成長率を人口増加率と一人当たりGDPの伸び率に分けてみると、人口増加率は1970年代の1%台から1980年代が0.6%、1990年代が0.3%と徐々に低下した後、2008年をピークに長期にわたる減少局面に入っているが、変化のペースは緩やかである。
これに対し、一人当たりGDPの伸びは1980年代の3.7%から1990年代が1.2%、2000年以降が0.8%と大きく低下している。人口減少や少子高齢化が経済成長の制約要因となることは確かだ。実際、生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに20年にわたって減少を続けており、団塊世代(1947~49年生まれ)が65歳を迎えた2012年以降は減少ペースが急加速している。ただし、生産年齢人口の減少が労働力人口の減少に直結するわけではない。
労働力人口は1990年代後半から減少傾向となっているが、2005年頃を境に減少ペースはむしろ緩やかとなっており、2013年、2014年には2年連続で増加した。これは高齢者雇用安定法の施行によって高齢者の継続雇用が進んだことや女性の労働力率が大幅に上昇したためである。
先行きについては、人口減少ペースの加速、さらなる高齢化の進展が見込まれるため、労働力人口の減少が続くことは避けられないが、女性、高齢者の労働力率を引き上げることにより、そのペースを緩やかにすることは可能である。
人口減少、少子高齢化に伴う労働供給力の低下に対応するため、成長戦略(日本再興戦略)では、雇用制度改革・人材力の強化が重要課題のひとつとされている。このうち、女性の活躍推進に対応する目標は、子育て世代が労働市場から一時的に退出することによって生じる「M字カーブ」が解消する程度まで女性の就業率を引き上げるというものだが、M字カーブを解消しただけでは女性の潜在的な就業意欲を十分に引き出したことにはならない。
女性の活躍を推進するうえで鍵となるのは、現在非労働力化している女性の多くを労働市場に参加させることである。非労働力人口は15歳以上人口のうち働く意思のない人(就業も求職活動も行っていない者)を指すが、非労働力人口の中にも就業を希望している人が相当数いる。2014年の非労働力人口は4489万人だが、このうち就業希望者が419万人、男性が116万人、女性が303万人となっている。
就業希望者の非求職理由をみると、女性は「出産・育児のため」が101万人と全体の3分の1を占めている。実際の労働力人口に非労働力人口のうち就業希望者を加えて潜在的な労働力率を試算すると、25~54歳の年齢層ではいずれも80%を超えることになる。これが現実のものとなれば、M字カーブが解消されるだけでなく、全体として女性の労働力率がかなり底上げされることになる。
近年、女性の労働力率は大幅に上昇しているが、注目されるのは、労働力率の上昇とともに潜在的労働力率も上昇している点である。このことは現時点の潜在的労働力率が天井ではなく、育児と労働の両立が可能となるような環境整備を進めることにより、女性の労働力率のさらなる引き上げが可能であることを示している。
女性の労働参加拡大とともに重要なのは高齢者の継続雇用をさらに進めることだ。成長戦略では高齢者の活躍推進も掲げられているが、2020年までの数値目標は64歳までとなっている。少子高齢化がさらに進展する中では、将来的には65歳以上の高齢者も働かなければ労働供給力は大きく低下してしまう。
今回の見通しでは、男性は60歳代の労働力率が現在よりも10ポイント程度上昇(60~64歳:77.6%(2014年)→87.5%(2025年)、65~69歳:52.5%(2014年)→61.4%(2025年))、女性は25~54歳の労働力率が70%台から80%前後まで上昇することを想定した。
2014年時点の男女別・年齢階級別の労働力率が今後変わらないと仮定すると、2025年の労働力人口は2014年よりも516万人減少する(年平均で▲0.7%の減少)が、高齢者、女性の労働力率上昇を見込み、2025年までの減少幅は235万人(年平均で▲0.3%の減少)とした。
日本の男性高齢者の労働力率は国際的にすでに高水準にあり、これ以上長く働くことは非現実的という見方もあるかもしれない。しかし、かつて日本の労働者(男性)は今よりも長く働いていた。1970年代前半まで男性高齢者の労働力率は60~64歳で80%台、65~69歳で65%程度で、現在よりも高い水準にあった。
もちろん、当時は定年がなく健康状態に問題がなければ年齢と関係なく働き続けることができる自営業者の割合が高く、現在とは労働市場の構造が異なっているが、平均寿命が当時から10歳以上延びていることからすれば、今回の想定はそれほど非現実的とは言えないだろう。