◆予測期間中の潜在成長率は1%程度まで回復
1980年代には4%台であった日本の潜在成長率は、1990年代初頭から急速に低下し、1990年代終わり頃には1%を割り込む水準にまで低下した。2002年以降の戦後最長の景気回復局面では一時1%を上回る局面もあったが、その後のリーマン・ショック、東日本大震災の影響もあって再び低下している。当研究所では足もとの潜在成長率を0.5%と推計している。
潜在成長率を規定する要因のうち、労働投入による寄与は1990年代初頭から一貫してマイナスとなっているが、このところ女性、高齢者の労働参加が進んでいることなどからマイナス幅は縮小傾向にある。その一方で設備投資の伸び悩みを反映し資本投入による押し上げが小幅にとどまっているほか、雇用のミスマッチや設備の老朽化などからこのところ技術進歩率が急速に低下している。
労働時間も加味した労働投入によるマイナス寄与は足もとの▲0.2%から▲0.4%まで若干拡大するが、設備投資の伸びが高まることにより資本投入によるプラス幅が拡大すること、技術進歩率が現在の0%台前半から0%後半まで高まることにより、潜在成長率は足もとの0.5%から予測期間後半にかけて1%程度まで高まると想定した。
◆10年間の実質GDP成長率は平均1.0%を予想
消費税率は2017年4月に8%から10%まで引き上げられることが予定されている。財政健全化目標では2020年度のプライマリーバランスを黒字化するとしているが、甘利経済財政担当大臣は「2020年度のプライマリーバランス黒字化達成のスケジュールの中で10%からさらに引き上げる考えはない」と述べている。今回の見通しでは2017年度に予定通り10%への引き上げが実施された後、2021年度に12%、2024年度に14%へと引き上げられることを想定している。
当研究所のマクロモデルによるシミュレーションでは、消費税率を1%引き上げた場合、消費者物価は0.71%上昇し、物価上昇に伴う実質所得の低下などから実質GDPは▲0.24%低下する(いずれも1年目の数値)。
また、消費税率の引き上げ前後では駆け込み需要とその反動減が発生する。当研究所では、個人消費、住宅投資の駆け込み需要により実質GDPは2013年度に0.6%押し上げられ、2014年度はその反動で▲0.6%押し下げられたと試算している。物価上昇に伴う実質所得の影響(▲0.72%=▲0.24%×3)と合わせると2014年度の実質GDPは▲1.3%押し下げられたことになる。
2017年度の消費税率引き上げの際にも2016年度には駆け込み需要が発生し、当年度には反動減に物価上昇に伴う実質所得低下の影響が加わることから成長率は低下する。また、2020年度までは東京オリンピック・パラリンピック開催に伴う経済効果が期待される。当研究所では、東京オリンピック開催による実質GDPの押し上げ幅を2014年度から2020年度までの7年間の累計で1%程度と試算している(*2)。
ただし、開催翌年の2021年度にはその反動で成長率が落ち込むことが見込まれる。今後、10年間の実質GDP成長率は消費税率引き上げ前後、オリンピック開催前後で振幅の大きな展開が続くことになるが、予測期間(2016~2025年度)の平均では1.0%となり、過去10年間(2006~2015年度)の平均0.4%から伸びが高まることが予想される。
なお、2017年度の消費税率引き上げ時に導入を目指すとされている軽減税率については、現時点で方向性が固まっていないことから、今回の見通しには織り込んでいない。仮に、食料(酒を除く)に軽減税率が導入された場合、消費税率1%引き上げによって消費者物価は0.5%程度の上昇(軽減税率なしの場合は0.7%程度)、実質GDP成長率は▲0.17%(軽減税率なしの場合は▲0.24%)の低下となり、軽減税率がなかった場合に比べると物価、成長率への影響が緩和されることになる。