◆新興国経済-新興国は5%前後の成長へ

新興国全体の今後10年の成長率は、既に述べた中国を含むBRICsを中心に過去10年の5%台後半から5%前後まで低下すると考えられる。2000年代前半のBRICsの高度成長は、中国・インドでは世界の工場および将来の消費市場としての魅力を背景に外国資本が流入したこと、ロシア・ブラジルでは世界的な資源需要の高まりと国際商品市況の高騰が貢献した。しかし、リーマン・ショック以降は資本流入が伸び悩んでいるほか、昨年急落した国際商品市況は回復が遅れる懸念もある。

更に今後、先進国が金融緩和策から脱却するに連れて、これまで新興国市場に流入していた緩和マネーが徐々に縮小すると見込まれる。今後、潜在成長率を維持または向上していくには、中国・ロシア・ブラジルでは都市化や高付加価値産業の育成、またインドでは製造業を育成するために雇用法制や土地収用法、規制緩和などがカギを握るものの、こうした構造改革の実現には時間を要するだろう。

また当該予測期間中の生産年齢人口(15-64歳)は、インド・ブラジルでは増加が続く一方、中国とロシアでは2015年前後に減少に転じると見込まれる。BRICsの今後10年の成長率は、過去10年の7%台半ばから5%台後半まで低下すると予想する。

中期経済見通し9

ASEANは、企業進出の上で重要視されるインフラや規制・制度環境の整備の遅れ、不正・汚職体質などの課題を抱える国が多い。しかし、ASEANはインフラや資本市場が整備されたマレーシア、産業集積が進んでいるタイ、内需が魅力のインドネシア、チャイナ・プラスワンで注目を浴びるベトナムやフィリピン、労働コストが安い後発新興国のCLM諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー)など多様な特徴を有する国の集合体であり、新興国の中では資本流入の面でやや優位になるだろう。

さらに、2015年末に発足するASEAN経済共同体の下で統合深化が進めば、6億人の一大経済圏となる域内の生産活動が活発化し、消費市場としての魅力も更に高まることになる。しかし、ASEAN4(マレーシア・タイ・インドネシア・フィリピン)の潜在成長率は、BRICsや韓国・台湾と同様に高齢化や先進国との技術ギャップの縮小によって中期的には落ち込むと考えられる。その結果、ASEAN4の今後10年の成長率は、過去10年平均の4%台後半と同水準になると予想する。

輸出主導の経済成長で高所得を達成した韓国や台湾などは、経済規模に比して輸出の割合が大きいために、今後も海外経済の動向に左右されやすい。海外経済は、先進国経済が過去10年平均に対して改善する一方、最大の輸出相手となった中国経済が緩やかに減速すると見込まれるため、韓国・台湾の輸出の牽引力は乏しい状況が続きそうだ。

また韓国・台湾の生産年齢人口は2016年より減少に転じるほか、高齢化に伴って投資の源泉となる貯蓄も縮小していくことから労働生産性の伸び悩みも予想される。今後10年の成長率は過去10年平均の3%台半ばから2%台後半まで低下すると予想する。