◆中国経済-成長率は緩やかな減速傾向が続き5%前後へソフトランディング

中国では、長らく続いた一人っ子政策の影響で生産年齢人口(15-64歳)の伸びが鈍化してきている。人口構成を見ると、これから生産年齢人口になる14歳以下の人口が少なく、生産年齢人口から外れてくる人口が多いことから、今後の生産年齢人口は2015年前後をピークに減少に転じ、経済成長にはマイナスのインパクトをもたらすだろう。また、従来の成長モデルに限界が見えてきたことも経済成長にはマイナスのインパクトをもたらす。

中期経済見通し7

文化大革命を終えて改革開放に乗り出した中国は、外国資本の導入を積極化して工業生産を伸ばし、その輸出で外貨を稼いだ。稼いだ外貨は主に生産効率改善に資するインフラ整備に回され、中国は世界でも有数の生産環境を整えた。この優れた生産環境と安価な労働力を求めて、工場が世界から集まって中国は「世界の工場」と呼ばれるようになった。

こうして高成長を遂げた中国だが、経済発展とともに賃金も上昇、また中国の通貨(人民元)が上昇したこともあって、賃金上昇と人民元高で中国の製造コストは急上昇した。そして、より安く生産できる製造拠点を求めて中国から後発新興国へと工場が流出し始めたことで、中国では経済成長の勢いが鈍ってきている。

一方、中国政府は従来の成長モデルに代わる新たな成長モデルを築こうと「構造改革」を進めている。具体的には、外需依存から内需主導への体質転換、労働集約型から高付加価値型への製造業の高度化、製造業中心からサービス産業の育成へなどである。こうした構造改革の実現には時間を要するものの、経済成長の安定には貢献すると思われる。

また、中国で進められている「新型都市化」も経済成長の安定と向上にプラス貢献するだろう。農村から都市へと労働者が移動すれば、より生産効率が高い分野に労働力が配分されることになり、生産性向上が期待できるからである。これまでも中国では都市化が進んできたが、巨大都市への人口集中、環境問題の深刻化、都市戸籍を持たない農民工(出稼ぎ農民)の待遇など多くの問題も同時に生じた。

農民工の待遇改善、中小型都市の開発、環境問題に配慮した都市化など質を重視した「新型都市化」を推進することで、より持続性の高い都市化の進展が期待できる。また、中国の都市化率(総人口に占める都市人口の比率)は2014年時点で54.8%と諸先進国と比べて低いことから、2025年には65%前後まで上昇させることは十分可能と思われる。

中期経済見通し8

こうした中で、中国政府は「新常態(ニューノーマル)」という旗印を掲げて、安定成長へ移行する方向に舵を切った。いま「新常態」へ舵を切れば、景気が失速しそうになった時にも、有効な景気対策を打てるだけの財政余力を残しているため、経済の急激な悪化(ハードランディング)は避けられる。しかし、このまま無理な高成長を続ければ財政余力が徐々に失われて、有効な景気対策が打てなくなる。

もしハードランディングに至れば、中国共産党の政権基盤を揺るがす問題になりかねないという危機感もあるだろう。従って、中国政府は「新常態」を旗印として、第13次5ヵ年計画では成長率目標を6%台へ引き下げ、第14次5ヵ年計画でもさらに引き下げるだろう。そして、経済成長率は5%前後へと緩やかに減速(ソフトランディング)していくと思われる。