◆欧州経済-実質GDPは2016年初にはピークを回復、GDPギャップ解消は2018年

ユーロ圏では、世界金融危機以降、長期不況が続いたが、2013年4-6月期以降、個人消費主導の緩やかな回復が続いている。欧州中央銀行(ECB)は、2014年半ばの踊り場局面で、追加利下げに動き、さらに2015年3月には国債等の買入れによる量的緩和を開始した。金融緩和の強化で、ユーロ高が修正されたこと、原油価格の低下、結びつきの強い米英経済の回復も、ユーロ圏の回復を支えている。

2016年以降、原油価格下落の効果は剥落し始めるが、ユーロ安の効果は2017年まで続き、成長指向の財政政策も景気を下支える見通しだ。ユーロを導入している19ヵ国のうち、財政赤字が欧州連合(EU)の健全性の目安である名目GDPの3%を超える国は、2010年時点の16ヵ国から2014年には9ヵ国まで減少し、ユーロ圏全体の財政赤字は名目GDPの2.4%まで減った。今後も、中期財政目標の範囲内で法人税減税や社会保障負担の軽減に動くなど成長指向を強める動きは続く見通しだ。

実質GDPは2015年の前年比1.5%から2016年は同1.6%、2017年は同1.7%へと緩やかに加速する見通しだ。実質GDPの水準は、2016年初には世界金融危機前のピークを上回るが、GDPギャップの解消は2018年とまだ時間を必要とする。

ECBは、量的緩和の期限を「2016年9月末または2%以下でその近辺の中期物価目標の達成が見通せるまで」としているが、向こう1年間にインフレ率の条件を満たすことは難しい。2016年10月以降も規模を縮小して、1年程度の量的緩和を継続するだろう。オペ金利で0.05%、預金金利はマイナス0.2%と異例の低水準にあるが、政策金利の見直しに動くのは、2018年末頃と想定する。予測期間末の政策金利は1.75%と、世界金融危機前の水準に比べて低い水準に留まると見ている。

2016年から2025年までの予測期間を通した実質GDP成長率の平均は1.4%となろう。個人消費が、中期的にも成長の牽引力となるが、固定資本形成も、世界金融危機前のピークをおよそ15%下回る水準で底這ったままの状態から、着実な回復の軌道に乗ると想定した。債務危機拡大の局面では外需が成長に大きく寄与したが、向こう10年間はおおむね均衡した状態が続くと考えている。

メインシナリオで想定するように、原油安やユーロ安などの要因が剥落した後も回復軌道を維持し、潜在成長率も持ち直して、異例の金融政策から脱することができるかどうかの鍵を握るのは投資の回復だ。債務危機に見舞われた国々を中心に、労働市場に関わる規制緩和など高コスト体質、構造的な硬直性を打破するための改革は着実に進展しているが、グローバルな競争が激化する中あって、継続的な取り組みは不可欠だ。

銀行同盟の完成、資本市場同盟の推進など制度・規制面からの統合のベネフィットを高める取り組みも望まれる。中国経済が失速し、米国経済も低成長を余儀なくされるなど、外部環境が厳しく、しかも、ユーロ圏内での構造改革も進展しない場合、ECBは異例の金融緩和を長期にわたり維持せざるを得ず、潜在成長率の回復も遅れる。

足もとでは、EUに内戦が続くシリアなどからの難民が大量に流入している。2015年の難民申請数は、前年の62.3万人を大きく上回る見通しだ。EUには過去10年間で平均して100万人を超える難民も含む移民が純流入し、人口の自然増のペースの鈍化を補ってきた。

シリア難民の年齢構成は、EU全体の年齢構成に比べて若年層が占める割合が高い。難民危機はEUの人口増加率と年齢構成を変える。難民の急増は、社会的な緊張を高めるリスクを孕むが、教育や職業訓練制度、労働市場への統合に成功すれば、リスクを緩和し、潜在GDPの向上につながる。

中期経済見通し6