海外経済の見通し

◆米国経済-潜在成長率を上回る成長が持続

2008年のリーマン・ショックを契機とする米国経済の落ち込みに伴い、潜在GDPと実際の実質GDPのギャップは2009年に7%(GDP比)に拡大した。米国では金融危機に対応して財政および金融政策等が総動員された結果、経済は2009年4-6月期を底に潜在成長率を上回る成長が持続しており、2015年のGDPギャップは3%程度まで縮小したとみられる。

とくに2014年以降は、労働市場の回復が加速している。2014年の雇用者数の増加ペースは1999年以来の高さとなったほか、金融危機後に一時10%近かった失業率は5%近辺まで低下しており、FRBが雇用の最大化と整合的としている失業率の目標水準(4.9%)の達成が視野に入ってきた。

雇用不安の後退から個人消費が堅調なほか、これまで回復が芳しくなかった住宅市場についても、住宅着工件数が100万件超と漸く家計増加数に見合うペースまで回復してきた。政策金利引上げに伴い、金融政策による景気刺激効果は低減が見込まれるものの、当面は消費主導で潜在成長率を上回る成長を予想する。

一方、潜在成長率の推移をみると、金融危機前の2000年代前半に3%超だったものが、足元では1.5%程度まで低下したとみられる。米国でも高齢化の進展に伴い、労働投入の伸びが趨勢的に低下することで、潜在成長率は緩やかな低下が予想される。

もっとも、今般の落ち込みは金融危機に伴い、労働市場の毀損や企業の設備投資抑制などの循環的な影響を大きく受けているとみられ、今後10年間では潜在成長率は2%程度と足元から小幅ながら加速が見込まれる。このため、成長率は予測期間末(2025年)にかけて潜在成長率並みの2.1%まで緩やかに低下すると予想する。

この結果、今後10年間の平均成長率は2.4%と、金融危機が含まれる過去10年平均の1.4%からは加速が見込まれる。また、GDPギャップは2018年頃にはほぼ解消するとみられる。

中期経済見通し5

金融政策については、2008年12月以降継続されてきたゼロ金利政策の解除が近づいている。FRBは、好調な労働市場を背景に年内の利上げ開始に意欲を示している。さらに、金融危機後に痛んだ家計のバランスシートも、純資産が過去最高額となる水準に改善しており、金融政策の正常化推進を後押ししている。

もっとも、もう一つの政策目標である物価についてはエネルギー価格の低迷が暫く持続するとみられることから、目標達成の時期は2018年頃を見込んでいる。このため、政策金利の引上げは2015年に開始されるものの、引上げペースは概ね年間1%程度と過去の利上げ局面に比べて緩やかとなろう。その後、政策金利は2018年に3.5%に到達した後、この水準が維持されると予想する。

一方、経常収支は金融危機前には国内景気がやや過熱気味だったこともあり、GDP比で5%を超える赤字となっていたが、今後10年間でそのような状況は想定していないため、GDP比で2%台後半の赤字に留まると予想する。足元では中国や新興国経済の減速に伴う米経済への影響が懸念されている。当研究所では、中国経済のハードランディングを見込んでおらず、これら経済の減速が米経済に与える影響は大きくないとみている。