おわりに

景気ウォッチャー調査によると、近畿では景気の現状判断(方向性)DIが2015年2月から7ヶ月連続で改善しており(図表-19)、景気の水準(現状判断)DIも50を上回るなど、他地域と比べ相対的に景気回復が強く認識されている。大阪市内の中小企業の夏季ボーナス支給比率も62.9%と2008年以来の高さとなった(図表-20)。

こうした景況感の改善が続く中で、大阪のオフィス需要は、周辺エリアや自社ビルからの移転などもあり、比較的強い状況が続いている。2015年は自社ビルの竣工が続いたことで賃貸ビルから自社ビルへの転出が進んでおり、それによる空室の募集が本格化する11月以降、淀屋橋・本町地区を中心に空室率が上昇する可能性が高い。

自社ビル供給による影響は約1万5千坪と少なくない規模であるが、2016年に大規模ビルの供給が予定されていないことから、いったん空室率が上昇しても需要の増加によって堅調に低下していくことが見込まれる。

というのも、大阪ビジネス地区における最近5年間の平均需要増加面積は3万坪に達するからだ。当面、空室率の上昇が見込まれるが、大きく市況が崩れる供給量ではないので、ビルオーナーは賃料の値下げ競争などで対応せず、時間をかけてビルの魅力を高める努力などを続ける必要があると思われる。

大阪のオフィス市場は需要の増加が進みながらも、なかなか市況改善の実感が広がらない状況にある。その理由の一つが、賃料の底打ちが実感できないことと、立地や規模・築年などにおける二極化が解消されていないことと思われる。

オフィス市況の景況感改善のためには、IT系やコンテンツ産業など、賃借面積を大きく拡大する成長企業・産業のさらなる育成と拡大が望まれる。また、大阪市は比較的、高齢者の多い都市でもあり、高齢者雇用や女性雇用などの一層の進展にも期待したい。

大阪オフィス市場 図19-20

(*1)2015年3月に実施した市況動向と見通し結果は竹内一雅「大阪オフィス市場の現況と見通し(2015年)」不動産投資レポート2015.3.3ニッセイ基礎研究所を参照のこと。
(*2)2015年2月に募集賃料の急上昇があるが、三鬼商事によると新築ビルの募集はこの月にのみ出ておりその影響と思われる。
(*3)三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
(*4)ザイマックスの定義によると大規模ビルは延床面積5千坪以上、中小ビルの集計対象は同3百坪以上5千坪未満のビル。
(*5)三鬼商事の定義による。大阪の主要6地区(梅田、南森町、淀屋橋・本町、船場、心斎橋・難波、新大阪地区)からなり、空室率等の調査対象はこの地区に立地する延床面積1千坪以上の主要賃貸事務所ビル。
(*6)三鬼商事によると2014年の一年間に空室面積は▲4.2万坪の減少で、ファンドバブル期を上回り、1991年以降で最大の減少となった。ただし2014年の空室面積の大幅減の半分近くはオフィスビルの再開発など賃貸可能面積の減少によるものであり(新阪急ビルや南海会館ビルの取り壊しなど)、需要増加自体は必ずしも突出して強いものではなかった。
(*7)淀屋橋・本町地区では供給が需要の増加より大きく、心斎橋・難波地区では供給の増加がない中で需要(地域外への移転など)が減少している。
(*8)最近5年間(2015年を含む)の年平均の賃貸面積の増加は+3.0万坪に達する(図表-10)。
(*9)2013年までは4月1日時点、2014年からは1月1日時点。2012年まで日本人人口、2013年からは外国人を含むことに注意。
(*10)減少率が高い区は、大正区(▲13.6%)、西成区(▲13.1%)、住之江区(▲9.3%)、旭区(▲9.0%)、港区(▲8.0%)など。
(*11)オータパブリケイションズ「週刊ホテルレストラン」より。

竹内一雅
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 不動産市場調査室長

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