追加金融緩和の可能性は低いまま

内需の動向を最も敏感に反映すると重要視している日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIは4〜6月期に+16と、前回のサイクルのピークである+12をとうとう明確に上に突き抜け、今回のサイクルが前回と比較しデフレ完全脱却へより強い動きとなっていることが確認できている。

DIは失業率に先行する指標である。DIの改善に従い、失業率が自然失業率とみられる3.5%を明確に下回り、強い総賃金の拡大がデフレ完全脱却への実感につながっていく動きは順調だ。しかし、7〜9月期には+16と横ばいとなり、長引く消費税率引き上げの悪影響やグローバルなマーケットの不安定などにより、企業心理が弱体化し、DIも改善が一時的に鈍っていることが確認された。

日銀は、企業収益の改善をともない、失業率が持続的に低下し、雇用環境の改善が続く限り、賃金上昇を経て2%の物価上昇がいずれ達成する道は堅調であると判断できるため、追加金融緩和には慎重なようだ。10〜12月期にはこのDIは+17へ再び改善した。失業率の更なる低下から、総賃金の強い拡大につながり、物価上昇が加速するデフレ完全脱却のシナリオは順調と判断され、追加金融緩和の可能性は低いままである。全規模全産業の雇用判断DIも10〜12月期に-19(マイナス=不足)と、1992年4〜6月期以来の水準となり、7〜9月期の-16から更に雇用不足感が強くなっている。


デフレ完全脱却が遠のくリスクとは

2015年度の大企業全産業設備投資計画は前年比+10.8%と、グローバルに株式・為替市場が不安定になったことを背景に、前回の+10.9%から若干下方修正された。しかし、+10%程度の拡大は06年以来であり強い計画が維持されている。1〜3月期に前期比+2.7%増加した実質設備投資は、4〜6月期に同-1.3%とブレーキがかかったが、7〜9月期には同+0.6%と持ち直した。

三本矢の政策により企業を刺激し、企業活動の回復の力を使ってデフレ完全脱却をするのがアベノミクスの形である。総賃金と設備投資の拡大という形で、企業収益の拡大から企業活動の拡大にしっかりつながっていくかどうかが、アベノミクスの成否を左右する。政府は16年度に前倒しで法人税率を20%台に引き下げることを決定し、企業側の規制緩和などの要求はできるだけ実施に結びつける決意を示している。官民対話による企業への政府のプレッシャーもあり、総賃金と設備投資の拡大は加速していくと考える。失業率が大幅に低下してきており、資本を潤沢に積み増し、労働生産性を上昇させる省力化投資が、製造業と非製造業ともに急務になってきていることも、徐々に動きとしてみられるようになるだろう。

注目している企業貯蓄率は1〜3月期に+1.1%まで低下したが、4〜6月期には+2.7%までリバウンドしてしまい、企業の警戒感が出てきている。企業のデレバレッジという総需要を破壊する力が残っていることを示す企業貯蓄率のプラスが解消するデフレ完全脱却までまだ時間がかかる。企業貯蓄率のプラスが解消するのは来年末になると考えられる。それまでに、株価下落などにより企業心理が衰えると、設備投資計画も大幅に下方修正され、デフレ完全脱却が遠のいてしまうリスクもまだ残っている。政府・日銀が、デフレ完全脱却に向けた経済政策への強いコミットメントを国民に示し、不安感を払拭し続けることが重要だろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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