金融危機以降のドル円相場は、ほぼ日米の金融政策の動きに歩調を合わせてきたが、12月に米連邦準備理事会(FRB)が約10年ぶりとなる利上げを開始したことから、ドル円相場は転換期を迎えたとの指摘も少なくない。ここでは、過去の米利上げ局面での相場のパターンを参照するとともに、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)が示唆する2016年の為替相場の方向性を確認し、最後に米大統領選挙年の傾向にふれる。

目次

  1. 2016年の為替相場は前半円高、後半円安方向へ
  2. ファンダメンタルズは円高に向かいやすい環境
  3. 125円を超える円安は「普通に考えてありそうもない」?
  4. 2016年の米大統領選挙、クリントン候補の勝利なら円安継続も

2016年の為替相場は前半円高、後半円安方向へ

過去3回の米利上げ開始から1年後のドル円の動きをみると、1994年2月4日から1年後は8.9%円高、1999年6月30日からでは12.2%円高、2004年6月30日からでは1.4%円安となっている。期間を半年ごとに区切ると、前半は円高、後半は円安に向かう傾向がある。

したがって、経験則からすると、2016年のドル円相場は、前半は円高が進むものの、後半は円高が是正され、年末は前年と比べ円高もしくはほぼ同じレベルに戻ることが見込まれる。今回の利上げはかなり緩やかなペースが予想されていることを踏まえると、2016年前半は1ドル=120円を下回る円高局面が訪れる可能性があるものの、年間を通して円高傾向が続くことはなく、年末までには120~125円のレンジに納まっている公算が大きそうだ。

ファンダメンタルズは円高に向かいやすい環境

ファンダメンタルズに目を移すと、日米金利差の縮小、米貿易赤字の拡大、日本の経常黒字の拡大などが円安抑制もしくは円高要因となる公算あり。

10年債利回りからインフレ率(消費者物価指数の前年同月比)を差し引いた値を実質金利、米国の実質金利から日本の実質金利を引いた値を日米実質金利差とすると、日米実質金利差は低下傾向にある。デフレで日本の実質金利が高止まりしていた影響で、2012年まで日米金利差はマイナスで推移していたが、安倍政権発足後にプラスに転じると、今年の3月には4%台まで上昇した。

ただし、日本のインフレ率が再びゼロ前後まで低下したことで金利差も縮小し、足もとでは1%台となっている。金利差が拡大すると円安、金利差が縮小すると円高となる傾向があり、日本の低インフレが継続した場合には、金利差の縮小が見込まれることから、円高要因になると考えられる。

実需の動きをみると、ドル高で米輸出が落ち込んでいることから米貿易赤字が拡大している一方で、円安の恩恵で日本の貿易収支が赤字から黒字へと転換している。日本の経常黒字も急拡大しており、日米の貿易収支の動きは円高を支援する内容となっている。

125円を超える円安は「普通に考えてありそうもない」?

6月10日に日銀の黒田東彦総裁が「ここからさらに円安に振れることはありそにない」と語ったことから、当時の125円が黒田ラインとして意識されている。黒田総裁の指摘は円の実質実効レートをベースとしており、実質実効レートは数値が低いほど円の実質的な価値が低下していることを示唆している。実質実効レートは6月に68.19まで低下し、1972年8月以来の低水準をつけた。その後はやや水準を引き上げているものの、11月現在でも70.71にとどまっており、反発の兆しはうかがえない。

一方、ドルの実質実効レートは昨年7月から今年11月までで23%上昇し、2002年11月以来、13年ぶりの高値となっている。円の実質的価値は変動相場制が始まって以来の低水準となっている一方で、ドルの価値は10数年ぶりの高水準まで上昇しており、125円を超える円安が定着することは、普通に考えてありえそうもない。2016年に円安が進むためには、日銀の追加緩和などかなり強力な支援材料が必要となりそうだ。

2016年の米大統領選挙、クリントン候補の勝利なら円安継続も

最後にアノマリーとして大統領選挙年のドル円相場の傾向をみておこう。変動相場制に移行した1973年以降、米大統領選挙は10回実施されており、今回が11回目となる。大統領選挙年のドル円相場は、10回中5回が円安、4回が円高、1回は変わらずとなり、平均すると0.6%円安となっている。大統領選挙年という要因だけでは、円高になる、円安になるといったはっきりとした傾向はない。ただし、過去40年あまりでドル円相場は300円近辺から120円前後となっており、数字上では大幅な円高となっていることを踏まえると、相対的には円安傾向を示唆しているといえる。

現時点では民主党のヒラリー・クリントン候補が優位と伝えられているが、同氏が当選した場合には民主党政権が3期続くことになる。1970年代以降で同じ政党が4期以上続いた例はなく、唯一3期続いたのは1981年から1992年にかけての共和党政権となる。連続3期目を勝ち取った1988年は3.1%円安となっている。同じ政党が勝利することは、現職が再選されることに近く、現職が再選された1984年、1996年、2004年、2012年はそれぞれ8.6%円安、12.1%円安、4.2%円高、12.5%の円安となっており、円安に振れる傾向がある。

政権の交代は経済運営に対する不満の裏返しともいえる。政権が交代した5回の選挙では3回が円高となっており、ドルが売られていることがわかる。したがって、クリントン候補が安定した支持を維持したまま勝利した場合には、円安の流れを継続することが期待できそうだ。逆に、政権交代の可能性が高まるようだと、円高に備える必要があるかもしれない。(ZUU online 編集部)

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