軽減税率,イギリス
店内飲食料金とテイクアウト料金が併記されたイギリスのカフェのメニュー(撮影=アレン・琴子)

――2017年4月の消費税率10%引き上げに伴い、低所得者対策として「軽減税率」が導入される見通しとなった。対象品目は酒や外食を除く飲食料品、定期購読している新聞などに決定したが、コンビニのイートインコーナーで食べる食品など線引きが微妙なものもある。

軽減税率が導入されたら、国民の日常生活にはどのような影響が出るのだろう。消費税に近い「付加価値税軽減税率」が導入されている英国在住のフリーライターが、軽減税率に対する思いをつづった。

「生活必需品」は減税・免税対象に

日本で導入が決定した消費税の軽減税率は、英国における「Reduced VAT Rate For Goods & Services(付加価値税軽減税率)」に該当する。郵便切手や金融、不動産取引など一部の商品やサービスを除いて、英国では基本的に20%の付加価値税(VAT)が導入されているが、英国政府が定めた「生活必需品」などは減税(5%)、あるいは免税(0%)の対象となる。

減税の対象となるのは「生活に必要な商品やサービス」で、「家庭用燃料および電力(ヒーター、ソーラーパネルなどの供給機器も含む)」「高齢者の介護用品(例:車椅子)」「子供の安全用品(例:チャイルドシート)」等となっている。

免税の対象となるのは「書籍」「CD」「子供の衣類」「大半の食品」等、「消費度が高い日用品やサービス」。かなり細かくカテゴライズされている。

一見国民に大変優しい減税制度のように思えるのだが、一般的に英国の物価は高いといわれている上、大半の商品やサービスには予めVAT込みあるいは免除の価格が表示されているため、日常生活ではあまり意識する機会がないように思える。

また正確な基準が国民には理解しがたい品目なども多々存在し、その矛盾点を指摘する声は多い。下記に筆者が感じる疑問点を紹介する。

疑問点①「菓子」の分類基準がおかしい

「贅沢品・趣向品」に標準税率(SR)が適用されのは納得できるのだが、筆者が常々不満に感じているのは、テイクアウト・フードはもちろん、温かい食べ物や飲み物、お菓子、ジュース、ミネラルウォーターなど、「贅沢品・趣向品」とはとても思えないものにまで高い税率が課せられる点である。

例えば「お菓子」。ビスケットやマシュマロ、ケーキ類は「高消費品」として非課税になるが、チョコレートやアイスクリーム、キャンディー、ガムは「treat(贅沢品)」とみなされ20%の上乗せとなる。

ここで最も理解に苦しむのは、チョコレートは「贅沢品」だがチョコレートビスケットなどの加工品は「高消費品」、ベーキング用として販売されているドライフルーツやナッツ類は非課税だが、スナック用として販売されているものは20%などとなっていることだ。分類の基準が納得できるようでできないのだ。

極端な例を挙げると、1切れ1000円のケーキやチョコレートの入った高級ビスケットは非課税になっても、10円のチロルチョコのようなお菓子は20%課税される。「一体マシュマロとキャンディーの何が違うのか」「リンゴ飴は非課税だが、生鮮食品というよりもキャンディー寄りになるのではないのか(恐らく、チョコレートとチョコレート加工品の差の定義が該当するのだろう)」等、数えだすとキリがない。

疑問点②テイクアウトの課税ポイント

減税が適用されている品物とそうでない品物を最も分かりやすく比較できる例は「外食」かと思われる。

英国の飲食店では「Take Away(お持ち帰り)」と「Eat In(店内での飲食)」によって値段が異なり、大抵はメニューにも両方の価格がキッチリと表記されている。

一般的に店内飲食の方が高くなる。これは、店内で飲食されるものがコーヒーやパスタなど「室温以上に温めた飲食物」(=標準税率)のカテゴリーに属するケースが多いことが関係している。また、テーブルについて食事をするという行為自体が「サービスの提供を受けている」とみなされ、たとえ客が「室温以下の生モノ」であるお寿司やケーキなど免税対象に属する食べ物を注文しても、一端テーブルについてしまえばサービス税を請求する義務が店側に生じるからだ。

それでは「お持ち帰り」は全て非課税扱いになるのかというと、注文する品のカテゴリーと温度次第ということになる。STに属する食べ物や温かい食べ物を注文すれば付加価値税(VAT)が適用される点は、「店内飲食」と変わりない。一番安上がりな外食をするには、「お持ち帰り」で「温かくない」「ZR(免税)の食品」――ケーキやサラダなど――を購入する以外にVATから逃れる方法はない。

しかしここにも落し穴が存在する。通常は室温以下で販売されているZR(免税)商品だが、パンやお惣菜類に至っては、運良くできたてホヤホヤのものが棚に陳列される場面に出くわすことがある。この状態で購入に至った場合、「室温以上」と見なされVATが課されなくてはおかしいのではないか―となるのだが、さすがにそこまで細かく臨機応変には対応できるほど店側も暇ではない。少なくとも筆者は在英24年の生活の中で、「できたてで温かいから課税します」と言われた記憶はない。

疑問③突如20%加算するネットショップ

こうした数々の疑問点は、同じ安全用品でもチャイルドシートは5%だが自転車用などのヘルメットは0%など、食品以外の日用品や消耗品でも多々見受けられる。

しかし国民の軽減税への意識は低く、例えば「店内飲食」や温かい飲食品が割高になる理由を「スタッフの人件費や光熱費などがかかるから」と、実質的な角度からとらえている人も珍しくはない。

それを逆手にとって、「非課税価格セール」や「免税セール」と称した20%オフのセールを実施する小売店も増えているほか、あえて税抜き価格のみを表示しておき、チェックアウト画面で突如20%を加算するという強引な裏技にでるネットショップも見かける。筆者を含めた消費者が最もVATの忌々しさを痛感するのは、「この店は安い」と会計をすませる前から既に得した気分でいたところに、このように予想外の展開に出くわした瞬間かも知れない。

疑問④便乗値上げ

2011年付加価値税(VAT)が17.5%から20%に引き上げられた当時、多くの小売店が2.5%の上乗せを一定期間見送るなどして「消費者への配慮」をアピールしていたが、値上げのほとぼりがさめた4年後の現在、いつの間にか多くの商品が20%以上値上がりしていることに気付く。

筆者は何度か納得いかない値上げの理由を業者や企業に質問したことがあり、軽減税率が適用されているはずの保険商品にまで「VATの値上がり」が言い訳として使われていた事実には驚かされた。少なくとも英国においては「ルールがあってルールがない」のが「軽減税率のある生活」といったところなのだろうか。

「生活必需品」に対する政府と庶民の差

消費税軽減税率が「全く生活に役立っていない」とはいわないが、最も恩恵を受けている階層が一般庶民ではないことは確かだろう。不動産の売買や貸し借りに始まり、飛行機の修理やボート、ヘリコプター、コンコルドの所有など、一般庶民の日常的には全くご縁のないような代物が非課税対象になっているという現実は、政府の視点から見る「生活必需品」が、我々庶民の基準とは大きく異なることを象徴しているような気がする。(アレン・琴子、英国在住のフリーライター)

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