原油価格が下がるとガソリン価格も下がることから、原油安は景気にとってポジティブな材料であり、そう考えると株価は上昇するはずである。

しかし、最近のマーケットでは原油安を嫌気して株式市場全体が軟調となることが多い。原油安と株安のリンクには2つの波及経路がしられており、ひとつがインデックス投資を通じた経路であり、もうひとつがクレジット市場を通じた経路となる。ここでは、まず2016年の原油市場を展望した上で、この2つの経路について説明する。

在庫の積み増しペース減速で原油価格は反発へ

米エネルギー情報局(EIA)が12月8日に公表した最新の「短期エネルギー見通し」によると、2016年の原油価格(WTI)は年平均で51ドルとなり、上半期は40ドル台半ば、下半期は50ドル台半ばで推移する見通し。供給過剰の状態は続くとしているが、需要の増加と米生産量の低下により、在庫の積み増しスピードが大幅に鈍化するとしている。

需給面でのポイントは、米生産量の低下とイランへの制裁解除となる。米国では、リグ(掘削設備)稼動数は昨年10月のピーク時から3分の1程度にまで急激に減少したが、生産量は今年7月のピークから4%の減少にとどまっており、期待されていたほどの低下がみられていない。

技術の改良や生産性の高い地域へと資源を集中した結果、生産性が高まったからだ。ただし、生産性の高い油井には限りがあることから、生産量は次第に減少することが見込まれている。一方、減産を見送っているOPECでは、イランへの制裁解除に伴い輸出量が増加する見通し。EIAはイランへの制裁解除時期として4-6月期を見込んでいる。

したがって、米生産量の低下がイランからの輸出量を上回れるかどうかが価格上昇のカギとなる。また、WTIに限ると、米原油の輸出解禁は、米国内での供給過剰を緩和することから、相場の押し上げ材料と考えられている。

インデックス投資を通じた株式への波及経路

米国の主な株価指数に占めるエネルギーセクターの構成比率は、かつては情報技術(IT)や金融に次ぐ比較的大きなウェイトを占めていた。最近の数字をみると7%前後とシェアを落としてはいるものの、依然として一定の影響力は保っている。

米国では2000年代に入ってから上場型投資信託(ETF)が急速に普及し、現在では個人投資家にまで定着している。ETFにはアクティブ型も存在はしているが、ほとんどがパッシブ型であり、何らかの形でインデックス(指数)と連動している。

ETFは取引手数料が極めて安いことからETFを利用したパッシブ・ファンドが増加中である。こうしたなか、少なからぬアクティブ・ファンドの運用成績がこうしたパッシブ型の運用成績を下回っている。高い信託手数料を払ってまでアクティブ運用に投資する魅力が乏しくなっており、ETFを利用したパッシブ運用の拡大を許す背景として挙げられている。

パッシブ型の運用は、比較的長期な投資スタンスとリスク回避的な運用を好む年金運用などと相性がいい。そして、年金運用などでは最大損失額を最小化することを優先する傾向があり、ポートフォリオ・インシュアランス型の運用スタイルが好まれている。このスタイルは、例えば、下落した株を売却することで下げトレンドでの損失額を抑える一方で、上昇した株を買い増すことで上昇局面での利益を向上させる。

したがって、相場の下落局面では下げを加速させることになるが、既に述べたように、割安となった株を買い拾うことを期待されるアクティブ型のファンドのシェアが縮小しており、相場の下落に歯止めがかかりにくくなっている。

このように、市場の一部に過ぎないエネルギー関連の株式が下落した影響で市場全体が大きく下げてしまう背景には、ETFの普及に伴うインデックス投資(パッシブ運用)のシェア拡大が挙げられている。見方を変えると、原油価格が反転すれば、相場全体を押し上げることが可能ということでもある。

クレジット市場を経由した株式市場への波及経路

米投資会社サード・アベニュー・マネジメント傘下の高利回り社債ファンドの実質的な破綻報道をきっかけとした株価の下落は、典型的なクレジット市場を通じた波及経路となる。

高利回り債の発行は石油企業のみに限られた話ではないが、「シェール革命」のブームに乗って、多くの企業が高利回り債を発行してシェール・オイルの生産に乗り出していた。原油価格が100ドル前後を推移していた頃の話では、シェール・オイルの採算ラインは60~70ドルとみられていたが、2014年11月のOPEC総会で減産が見送られると、その後、原油価格はこの採算ラインを大きく割り込んでいった。その結果、関連企業の倒産が相次く事態となり、高利回り債の価格が急落。市場が小さく、流動性が乏しいことも下落に拍車をかけた。

シェール・オイル関連企業の債務は社債市場全体との比較では取るに足らないとの見方がある一方で、サブプライム問題との共通点を指摘する向きもある。より信用度の高い社債にも悪影響を及ぼす可能性があるほか、一部は複雑な金融商品に組み込まれている可能性もあり、「第2のリーマンショック」との警鐘も聞かれる。

現時点で今後どの程度この問題が波及していくかを展望するのは困難であるが、原油価格が反発した場合には、素直に株式市場の支援材料とみてよさそうだ。ただし、原油価格の低迷が長期化した場合には、石油関連企業の倒産が増加し、信用リスクの高まりが株式市場を圧迫するという構図を頭に入れておく必要がある。(ZUU online 編集部)

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