(写真=PIXTA)
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デフレ逆戻りは断固とめる、円高阻止のために「マイナス金利」導入

黒田日銀の第3弾のバズーカは「マイナス金利」であった。筆者はこの先の緩和策としてラインナップはしていたが、まさかこのタイミングで、と正直驚いた。総裁は「年初来の金融市場の不安定さなどが人々のデフレマインドからの脱却に悪影響を及ぼす恐れに対して躊躇なく対応した」と導入の理由を説明した。

金融市場の混乱は日銀の2%目標達成を危うくした。年初に120円程度だった円相場は一時115円台に上昇。年初に1万9000円近くだった日経平均株価も一時1万6000円に急落した。このまま市場の混乱が続けば企業マインドが冷え込み、春季労使交渉での賃上げにも逆風が吹きそうだった。

マイナス金利導入1

黒田総裁は今回の緩和が「為替相場を円安にすること」を目的にはしていないと述べたが、115円を意識した円相場の動きは放置できるものではなかったはずだ。

12月調査の日銀短観では15年度下期の企業の想定為替レートが118円。今年度最高益を更新しそうなトヨタですら115円が想定為替レートだ。このままでは企業業績の下方修正が起こり、せっかく広がってきた賃上げの動きもストップし、早期2%達成の目標もまったく見通せなくなる。その危機感が緩和の背中を押した。

「円高阻止」に向け、バズーカ2までの質的・量的金融緩和の拡大ではなく、市場に金利差拡大を着目させ円安を促せる「マイナス金利」を選択した。

欧州ではECBを含めいくつかの中銀で既に「マイナス金利導入」の先行事例がある。その評価は必ずしも定まったものではない。ただ、自国通貨安に動かす効果はある程度でているようだ。ECBは2014年6月以降、マイナス金利を導入したが、ユーロの実効為替レートは14年6月から15年12月までに1割下落している。

量拡大の「限界論」にエネルギーを使うのではなく、さっさと量から再び金利へ転換

もうひとつマイナス金利採用の理由に量拡大の限界論があったはずだ。日銀は国債買入れを年80兆円まで増やし、発行国債額の約30%を保有するまでに至っている。市場では「2017年か遅くとも2018年には買入れの限界がくる」との限界論が広がっていた。リートやETFについても同様の限界論が噴出していた。

極論を言えば日銀はまだ発行国債の30%「しか」買っておらず、あと70%は買える。ただビジネスを展開している民間金融機関にとってはこの議論は経営上受け入れられない。これ以上量拡大政策を行えば、今以上声高に「もう限界」「打ち止め」との大合唱をしたはずだ。黒田総裁はこの議論に乗らなかった。

ほんの数日前まで「検討していない」としていたマイナス金利をあっさり採用する。たとえ過去の政策効果にケチがつけられようとも、数日前まで「検討していない」といったことを採用して「うそつき」だといわれようとも日銀は「物価目標の早期実現に向けて何でもやる」の一点だったのではないか。量拡大をしても「打ち止め」と言われるのなら、やれるほかのことをやる。非常にシンプルな発想であったように思う。

ただ日銀執行部としては政策の連続性も重要だ。今回のマイナス金利導入は政策目標を量から再び金利に戻すという大転機だと筆者は思うが、日銀としては金利に戻すことは、自ら量的緩和の効果を否定することになりかねない。

そこで、量も質も維持しながら、マイナス金利も加え、今までの2つの手段からマイナス金利という新しい手段をプラスするとの打ち出しをした。かなりうまくさすが日銀と思わせる理論構築だ(今後マイナス金利政策を押し進めれば、金融機関が日銀に売った国債の資金を日銀に積めないため国債売却が進まず、結果、量目標の維持が難しくなる可能性はある)。