マイナス金利の効果は限定的、通貨安戦争に発展しないためのG20議論が必要

そのマイナス金利政策は金融機関の融資増や通貨安誘導など一定の政策効果が期待できるが、金融機関の収益圧迫につながるなど功罪両面が指摘されている。

マイナス金利政策は、日銀が銀行から預かる当座預金の一部に適用する金利を初めてマイナス金利にする。銀行は日銀に資金を預けると、今までとは違い金利を支払わなければならないため、その分の資金を企業向け融資や有価証券への投資に振り向けるようになる。

短期金利がマイナスになることで長期金利も強烈な低下圧力を受ける。1日には10年国債は0.05%と過去最低を更新した。長期金利の低下により企業の設備投資や個人の住宅購入が促進される。また金利差に着目した国内外の投機家から円売りで円安を促し、株価上昇も期待される。

一方で金融機関の収益圧迫などの副作用がある。金融機関が日銀に預ける預金は250兆円程度ある。これまでの金利は0.1%だったので、年2000億円強の利息が自動的に日銀から金融機関に支払われていた。今後これが減少することになる。さらに、市場金利の低下で貸出の利ざやが縮む影響も大きくのしかかる。

特に国内業務に依存する地方銀行の影響はより大きくなる。個人にとっては預金金利がほぼゼロになるだけでなく、年金・保険、投信など資産運用の金利収入が大幅に悪化する。さらに金融機関は運用収益が上がらず既存商品の見直し・販売停止を決定せざるをえなくなる。ゼロ%の金利収入であっても安全だからと思っていた商品すら購入できなくなる。

功罪を見ると金融機関のポートフォリオリバランスがどの程度進むのか、特に民間融資がどの程度伸びるのかがポイントだろう。ECBの場合、企業向け融資残高はマイナス金利導入後もほぼ横ばいでの推移となっている。筆者は、日本企業は巨額の内部留保が存在し資金ニーズが乏しい上に、元々低い借入金利を少し下げても設備投資に向かうとは考えにくく、効果は限定的との判断をしている。

効果がなかなか出ないと、さらなるマイナス金利の引き下げやマイナス金利の適用範囲を拡大することになるが(今回は当座預金にかかる金利設定が3段階にし、マイナス金利適用の当座預金を一部だけにしている)、そうなると銀行の逆ザヤが拡大し、金融システムに影響を与え副作用が一気に強く出る。

また日本では預金は特別なものである。いずれ欧州のように自分の預金も手数料を払わなければならないなどの不安が高まってしまうと、生活防衛色が強まり消費低迷、経済悪化を引き起こしかねない。現在のマイナス金利で支えている間に、政府がすばやく成長戦略を実行し、投資機会を増やせるか、ここが効果発揮にもっとも重要な点だ。

さらに別観点ではあるが、日本がマイナス金利を採用したことで通貨安戦争に向かわないかが気になる。ユーロと円がマイナス金利となり、ドル高の圧力がかかりやすい。中国元は実質ドルに連動しており、中国経済の現状からすればもう一段の中国元安誘導の可能性が高まる。

そうなれば、さらなる新興国通貨の切り下げ、さらにはユーロ、円のマイナス金利引き下げと、悪循環が起きはじめ金融市場が混乱となってしまう。早急にG20などで政策協調の議論が必要だ。