米雇用統計が2月5日午後10時30分に発表される。FRB(米連邦準備理事会)は昨年12月、堅調な雇用情勢に後押しされて利上げに踏み切った。景気がよいから実施したはずだったが、予想に反して米景気は失速している。以下では、景気減速懸念が強まるなかで発表される米雇用統計の位置づけを整理し、株価や為替への影響を予想する。
追加利上げの見送りを確認できれば株高を支援
まず、事前予想を確認すると、1月の米非農業部門の雇用者数は前月比19.0万人増加となり、景気の減速で12月の29.2万人増加から増勢は大きく鈍化する見通しだ。通常、事前予想を上回ると株高、下回ると株安となるが、今回は逆になる可能性が高い。年初からの株価安で追加利上げ観測が大きく後退しており、弱い数字で追加利上げは当面ないとの見方を確認できれば、むしろ株価にはプラスとなる。強い数字は利上げへの警戒感を強めるため、かえってマイナス要因となりそうだ。
CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)のフェドウォッチによると、2月3日現在、FOMC(米連邦公開市場委員会)での利上げ確率は3月が14%、6月が24%、9月が30%、12月が40%となっており、年内は見送りとの見方が織り込まれている。
雇用統計が注目されるのは景気との連動性が強いからであり、雇用者数とGDP(国内総生産)の前年同期比の動きはおおむね歩調を合わせている。2015年の第1四半期から第4四半期の数字をみると、雇用者数の伸びは、それぞれ2.3%、2.2%、2.1%、1.9%だったのに対し、GDPは2.9%、2.7%、2.1%、1.8%となっている。
雇用の伸びが低下するのにしたがってGDPの伸びも低下していることがわかる。1-3月期のGDPは昨年1-3月期の伸びが弱ったこともあり、前年同期比で1.6%以上増加しないと前期比ではマイナスとなる。雇用の伸び率の鈍化が継続した場合には、マイナス成長は回避できたとしても、ほぼゼロ成長となることが予想される。したがって、弱い数字が確認された場合、短期的には好感される公算が大きい一方で、中期的には景気の停滞により株価の抑制要因となりそうだ。
サービス業の動きを注視、失業率の下げ止まりには警戒を
景気の先行きを占う上では、サービス業の雇用情勢が注目される。米経済は低調な製造業と好調なサービス業という構図となっており、これまで成長を下支えてきたサービス業が下振れるようだと、景気の後退も視野に入れる必要があるからだ。1月のISM非製造業景気指数は53.5と2014年2月以来、2年ぶりの低水準となった。内訳項目である雇用DIも12月の56.3から1月は52.1へと低下している。2014年1-3月期の米GDPはマイナス成長となっており、サービス業の失速はそのまま成長を直撃する可能性がある。
失業率が下げ止まっている点にも警戒が必要だ。過去の景気循環からは、失業率が前年同月を上回ると、数カ月後に景気後退に陥るパターンがみられており、今後失業率が上昇した場合には年後半に景気後退入りするリスクが高まると考えられる。1月の米失業率は5.0%と4カ月連続で横ばいとなる見通し。8月の5.1%からほとんど動いておらず、下げ止まりの兆しをみせている。
なお、今回の発表では季節調整要因の改訂などにともない、2011年までさかのぼって過去分も改訂される。増勢がこれまでのイメージとは異なる可能性があり、特に過去3カ月の雇用者数が平均で28.4万人増加と強い数字となっていることから、この数字がどのように変化するのかも気になるところだ。
日米欧の金融政策の方向性の違いが混乱のもと
1月27日のFOMCでは「海外経済を注視」、日銀の黒田総裁も2月3日の講演で日本の景気回復にとっては「海外経済が最大のリスク」と述べるなど、日米の金融当局は海外経済を他人事のように扱っているが、そもそも市場が混乱している震源地はドル高であり、背景には日米欧の金融政策の方向性の違いがある。
世界的な株価の急落は、人民元の切り下げ観測と原油安をきっかけとしており、どちらもドル高が圧迫している。2014年10月に米量的緩和第3弾(QE3)が終了してから今年1月までの間、ドルインデックスは約20%上昇しており、基本的にドルにペッグしている人民元がドル以外の通貨に対して割高となったことが、人民元の切り下げ観測につながっている。ドル高が是正されれば、中国経済が減速したとしても、切り下げ観測は後退することになろう。また、新興国の通貨や原油をはじめとした国際商品価格も押し上げられ、新興国や資源国の経済も底入れに向かうことも期待できよう。
ドル高の是正にはさえない数字が望ましい
今回の米雇用統計の数字が弱い場合には、FRBの金融正常化への動きが修正され、ドル高是正が進むことが期待できる。また、マーケットにとって一番望ましいのは、米景気がソフトランディングしながらドル安が進むことである。
最近の米株価はドルとの連動性がかなり強まっており、S&P500株価指数とドルインデックスの過去3カ月の相関係数はマイナス0.93となっている。また、原油価格とドルの連動性も極めて強く、過去3カ月のドルインデックスと原油先物価格(WTI、期近)の相関係数はマイナス0.95となっている。
このように、ドル高が株価や原油価格を圧迫していることはかなり明白であり、ドル高が是正されれば、人民元への切り下げ圧力の緩和や原油価格の底入れのほか、米企業の業績回復にも支援材料となる。
したがって、今回の雇用統計では、FRBに追加利上げを思いとどませる内容であるのかどうかがポイントとなりそうだ。マーケットは雇用統計の数字から、「利上げの先送りを支持する」一方で、「景気が後退するほど弱くはない」との見方を肯定してくれる内容を探すことになろう。この場合、事前予想を若干下回る数字が最もよい数字となるのではなかろうか。(ZUU online 編集部)
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