グローバルな景気・マーケットの不透明感がかなり強く、米国の景気回復が遅れるとともに弱く、FEDの利上げペースも遅れるリスクが高まっている。10-12月期に果断に踏み込むべきであった日銀と政府の政策対応も、1-3月期へと遅れてしまい、政策の限界をマーケットが意識しはじめてしまった。

そして、円高が大きく進行し、企業心理が下押されている。テクニカルには、10-12月期の異常な暖冬が消費を大きく下押したことが、2016年に向けた成長のゲタを縮小した。1月以降に気温は低下したが、株価の下落が消費者心理を下押したことで、消費のリバウンドは弱いだろう。

拙速であった2014年4月の消費税率引き上げによる消費者心理の萎縮がまだ残っている。景気が強く拡大する前に2017年4月に更なる消費税率引き上げが待っていることが、消費者心理の回復を妨げているようだ。結果として、2016年の実質GDP成長率の予想を+1.7%から+0.8%へ下方修正した。

遅れてしまったが政策効果がこれから出てくること、原油価格の下落による交易条件の大幅な改善が企業収益を支えること、労働市場の引き締まりにより総賃金の拡大が強いこと、消費税率引き上げ前の駆け込み需要が徐々に出てくること、そしてグローバルな景気後退とならず円高が持続的にならないことを前提にすれば、+0.5%程度である潜在成長率はまだ上回ると考える。

2%物価上昇の達成は先送りか

2016年に潜在成長率を十分に上回る成長率を維持することはアベノミクス成功のための必要条件であると考えられるが、リスクが高まって来ている。このままグローバルな景気・マーケットの不透明感が強い状態が続けば、2016年度の政府予算成立後、早急に景気対策がまとめられる可能性が高まってきたと考える。

需要超過幅の拡大のペースは遅れるため、原油価格が安定したとしても、物価上昇のペースは遅れるだろう。もともと困難であるとみられたが、日銀が目指している2017年度前半の2%の物価目標の達成は不可能となり、再び達成時期の先送りが検討されるだろう。

日銀の予想通りの物価上昇のペースが実現する可能性を大幅に高めるにはGDP対比3%程度、15兆円程度の景気対策が必要だろう。この額は、マネーが拡大する源、今回の景気回復のデフレ完全脱却への動きの源、すなわちアベノミクスの源であった国内のネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支、これまではこれば0%で、日銀がマネタイズすべきものがなく、マネーが拡大できなかったことがデフレ脱却を困難にしていた)が、企業心理の下押しによる企業貯蓄率の上昇と前回の消費税率引き上げなどによる過度な財政収支改善により、3%程度縮小してしまっていることを埋め合わせる分だ。

追加金融緩和の可能性は

まだメインシナリオではないが、2016年のうちに日銀が追加金融緩和(更なるマイナス金利の拡大)に踏み切る確率が10%から30%へ高まったと考える。日銀は、サプライズな動きでは瞬間的な効果は大きいが持続的にならなず、マーケットにしっかり織り込ませた上での動きが効果を持続的にすることを学ぶだろう。

また、2017年4月の消費税率引き上げの延期の確率が同様に10%から30%へ高まったと考える。

アベノミクス開始後の名目GDP(5.6%)や総賃金(4.8%)のしっかりとした拡大という成果と比較し、消費(1.0%)の回復の遅れが鮮明であり、リフレ政策であるアベノミクスとは本来無関係で、緊縮政策である消費税率引き上げが足を引っ張ってしまったことの反省が生まれるだろう。

消費税率の引き上げがなければ、アベノミクスの成果はより見えやすかったはずだ。日本の財政収支が大幅に改善していることはグローバルに認識されており、円への信任は異常に強く、財政不安拡大への懸念が小さくなっていることも後押しとなろう。消費税率再引き上げの延期は衆議院の解散による国民の信を問うこととカップリングすると考えられる。

今夏の参議院選挙に合わせて、衆議院も解散総選挙となる確率も、同様に10%から30%へ高まったと考える。さらに踏み込んで、拙速な消費税率引き上げの原因となってしまっている2020年度のプライマリーバランスの黒字化の達成時期を遅らせることまで踏み込む可能性もある。

甘利前経済担当相の辞任後も安倍内閣の支持率は予想以上に堅調であり、野党の国会での攻勢が弱く、野党の共闘体制の構築に時間がかかるとみられることも後押しとなろう。

言い換えれば、メインシナリオ(追加金融緩和なし、予定通りの消費税率引き上げ、衆議院解散なし)の確率は90%から70%へ低下したと考える。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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