2015年はWTO(世界貿易機関)発足20年であり、日本がGATT(関税と貿易に関する一般協定)に加盟して60周年という節目の年だった。その象徴的な2015年の最後の日、12月31日に、ASEAN経済共同体(AEC)が発足した。

同時期には、TPP(環太平洋連携協定)も、国内の政治過程で大きな争点となったものの、昨年10月には大筋合意に達し、2016年2月の署名式で協定の内容が確定。日本を含める加盟各国の経済的なつながりも密接になり、経済成長の推進力としての期待も集まる.

AECとTPPががちょうど同時期に立ち上がっていることになり、世界の地域共同体や貿易圏をめぐる流れは気になるところだ。特に、AECには、TPPに劣らぬ注目が必要だろう。この共同体に期待される効果を今回は見ていこう。

AECはEUのアジア版か?

アジアに新たな自由貿易圏を作り出しそうなAECは、コンセプトも従来の自由貿易と同じ方向を向いている。域内の関税撤廃、交通インフラ整備などを図る「モノの自由化」、短期滞在ビザの撤廃や熟練労働者の移動自由化など「ヒトの自由化」、出資規制の緩和や金融機関の相互進出を図る「サービスの自由化」を目指すもので、東南アジアが一つの経済圏としてより具体的な形をとった格好だ。

ただ、AECは、同じ「共同体」を謳っていても、EUと大きく異なる点もある。それが、共同体内での国家の位置づけだ。EUは、共同体の権利が国家の主権の一部と競合したり、共同体内では基本的に通貨「ユーロ」を使うなど、単一通貨や中央銀行を持つが、AECはそうではない。非熟練労働者の移動も規制されたままで、「共同体」と言うよりはFTA(自由貿易協定)に近い集まりだ。

そのAECで注目されるのはもちろん、潜在的な成長性だ。AECの域内総生産は、2兆ドルに迫るとみられており、AECの域内人口も約6億2000万人とEUの5億人を上回る計算だ。さらには、生産年齢人口が比較的多いため投資先としても魅力的で、加えて国際幹線道路などインフラ開発の進捗も目覚ましく、今後2030年までにさらに3兆ドル超のインフラ投資が必要になるという試算も浮上している。

AECは勢力圏争いをどう生き抜くか?

AECの誕生で、もう一つ無視できないのが、勢力圏争いだ。そもそもASEAN地域では、ASEAN自由貿易協定(1993年)以来、域内諸国は結びつきを強化してきたが、中国とインドという大国に挟まれた東南アジアが、域内協力を推進しようとした、東アジアにおける最初のFTAだ。

ASEAN自由貿易協定以後、1997年に生じたアジア通貨危機などを経て、ASEAN諸国はさらに地域連携への志向性を強めてきた。日中韓との連携開始や、インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ブルネイからなるASEAN原加盟国6カ国の間での関税を原則的に撤廃するなどの取り組みを進めてきた。

同時に、物品分野については周辺6カ国(日本、中国、韓国、インド、豪州、ニュージーランド)とそれぞれ「ASEAN+1」のFTAネットワークを形成するに至っている。

一方で、ASEANの連携強化の動きを警戒するのが米国だ。同国は「東アジアにおける地域化」は自らの影響力の低下につながると懸念し、TPP(環太平洋パートナーシップ)交渉に加わり、積極的に推進してきており、その結果、TPPという巨大な貿易圏構想の実現も間近に迫っており、米国の取り組みが一つの成果を生み出そうとしている。

最初は「ASEAN+3」を標榜していた中国も、こうした動きに反応。「ASEAN+6」による「東アジア地域包括的経済連携」(RCEP、アールセップ)を同国が提唱しはじめ、2012年11月には交渉開始で合意された。

日本を含めAPEC参加国・地域の間では、最終的な理想型としてアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP:エフタープ)の実現を目指す動きもある。そのためのルートとして、TPP、RCEP、ASEAN+3などのオプションが存在する形だが、結局は米国が主導するTPPか、中国主導のRCEPという囲い込み合戦が進み、超大国同士の勢力圏争いの要素も散見される。

実際に、米国のオバマ大統領は2月15、16の両日に、ASEAN各国の首脳らをカリフォルニアの保養施設に招き会談。南シナ海の領有権問題で中国を牽制するともに、経済面での一体化を進めるASEANに対する米国の関心を明確化したものとみられている。生産・消費の両面で日本企業に馴染みが深いASEAN地域、AECとどう付き合ってゆくのか、各企業の模索が続きそうだ。(岡本流萬)

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