2月米雇用統計
(写真=Thinkstock/Getty Images)

2月の米雇用統計が日本時間3月4日22時30分に発表される。最も注目度の高い経済指標であることからマーケットへの影響も大きく、米金融政策を占う試金石でもある。

以下では、まず前回の数字と市場の反応を振り返り、次に最近の経済指標や要人発言から環境の変化を確認したうえで、今回のポイントを指摘し、次回FOMC(米連邦公開市場委員会)や為替市場への影響を考える。

1月の結果で最も注目を集めたのは賃金の高い伸び

前回の結果でもっとも注目を集めたのが賃金の高い伸びだった。米インフレ率は目標となる2.0%を大きく下回っているが、このような状態でもFRB(米連邦準備理事会)が利上げに踏み切ったのは、足もとでの低いインフレ率は原油価格の下落の影響を強く受けており、堅調な労働市場を背景として基調的なインフレ動向はむしろ強まっていると認識しているからだ。

そこへ、このFRBの見方を裏付けするかのごとく賃金の高い伸びが示されたことで、年初からの株安で消えかけていた追加利上げ観測が再点灯し、為替市場ではドル高・円安に、株式市場ではネガティブな反応がみられた。

生産活動に底入れの兆し

前回の雇用統計以降に発表された主な経済指標をみると、失速ぎみだった景気が持ち直していることがわかる。「堅調な雇用」と「低調な生産活動」という構図がながらく続いていたが、生産活動に明るい兆しが見え始めている点が大きな変化である。

具体的には、6年ぶりの低水準に沈んでいたISM製造業景況感指数が2月まで2カ月連続で上昇したほか、1月の米鉱工業生産指数が4カ月ぶりにプラスを回復、1月のシカゴ全米活動指数も6カ月ぶりにプラスに浮上した。

また、10-12月期の米実質GDP(国内総生産)が前期比年率1.0%増加と速報値の0.7%増加から上方修正されたことも景気の減速懸念を和らげた。一方、住宅市場がやや伸び悩みとなっているが、昨年12月の利上げ後、長期金利はむしろ低下しており、住宅ローン金利も歩調を合わせていることから、住宅市場が一段と冷え込むとは考えづらい。FRBが利上げまでに時間をかけたことで、住宅需要がやや前倒しとなり、減速はその反動とも考えられる。

「期待」と「現実」のはざまで揺れるFOMC

この1カ月で米景気の失速リスクは大きく低下したといえるが、利上げの継続にはまた別の問題を抱えている。FRBの頭痛の種は統計数字に表れるインフレ率と期待インフレ率の動きに整合性がうかがえないことにある。まず、基調的な物価の動きを示すとされるコアCPI(食品とエネルーギーを除く消費者物価指数)をみると、1月は前年同月比2.2%の上昇となり、3カ月連続で目標となる2.0%を上回っている。

一方、家計のインフレ期待とされている2月のミシガン大学の5-10年期待インフレ率は2.4%と調査が開始された1979年以来で最も低い水準となった。また、市場参加者が示す期待インフレ率とされるインフレ・スワップ金利は1月下旬に1.4%台となり、年初の1.8%台から一段と低下している。

要するに、見通しとしてのインフレ率が低下しているにもかかわず、実際のインフレ率は上昇しているということだ。教科書的には期待インフレ率の低下は実際のインフレ率を押し下げるとされている。こうした状況をとらえて、セントルイス連銀のブラード総裁は「インフレ期待が実際のインフレ率に影響を与えるとの考え方が間違っている可能性がある」とし、「インフレ率の上昇が続けば利上げを停止するのは困難」と述べている。

同総裁は、昨年12月の利上げとその後の株価の急落を受けて、資産バブルのリスクが大きく後退し、インフレ期待も低下していることから利上げの継続には反対の立場をとっていた。また、ニューヨーク連銀のダドリー総裁も成長とインフレのリスクバランスは「やや下振れしつつある」と発言しており、インフレ期待の低下を懸念して追加利上げが遅れる可能性を示唆しているメンバーの1人である。

しかし、追加利上げに難色を示しているのは少数派であり、サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁は「米経済はインフレ率を目標となる2%に押し上げるのに十分に力強い」との見方から「緩やかな利上げは正しい戦略」としており、リッチモンド連銀のラッカー総裁も「経済は成長軌道」にあり、「年内の追加利上げは合理的」と述べている。カンザスシティ連銀のジョージ総裁に至っては「3月の会合で利上げを検討すべき」と発言している。

CMEグループのフェドウォッチによると、3月2日時点での利上げの確率は3月のFOMCが4%、6月が35%、9月が45%、12月が61%となっており、年内に1回の追加利上げが織り込まれつつある。

FRBの金融政策の軸足は雇用情勢からインフレへとシフトしており、今回の雇用統計においても賃金の伸びや失業率といったよりインフレとの連動性が強い数字が注目されることになる。結局のところ、期待というあいまいな概念よりも「起きていることが正しい」との認識が勝り、米景気がこのまま失速に向かう可能性は1カ月前に比べて格段に低くなっていることも踏まえると、次回のFOMCで年内の追加利上げが支持を失うとは考えづらい。したがって、今回の雇用統計で賃金の動きによほど悪い数字が出ないかぎり、フェドウォッチの利上げ確率が上昇し、6月もしくは9月のFOMCでの利上げを織り込んでいくことになりそうだ。

雇用者数は「10万人」が分水嶺、予想に届かなくても影響は小さい

2月の非農業部門の雇用者数の事前予想は19.3万人増加と前回の15.1万人増加から持ち直す見通しで、通常であれば、この事前予想の数字を下回れば円高、上回れば円安となるが、米金融政策の軸足は既に物価の安定へとシフトしており、雇用者数は以前ほどのインパクトを失っている。

雇用者数で重要となるのは事前予想の数字よりも「10万人」となりそうだ。イエレン議長は昨年12月、「毎月10万人弱の雇用ベースを確保できれば労働市場への新規参入を吸収できる」と発言しており、結局のところ、10万人を確保できれば景気の先行きには問題が生じないともいえるので、この数字がより重要となる。

また、全体の数字よりもサービス業の雇用の伸びを注視すべきだ。米経済をけん引しているのはサービス業だが、製造業とは逆にサービス業がこのところ精彩を欠いている。2月のISM非製造業景況感指数は2月まで4カ月連続で低下しており、2月は雇用項目が分岐的となる50を下回った。したがって、市場はサービス業の動きに敏感になっている。

前回同様、雇用者数の伸びがさえないとしても、賃金の伸びさえしっかりしていれば、円安材料となりそうだ。また、予想を上回る強い数字がでても、インフレ懸念を助長することになるので、こちらも円安材料となりそうで、どちらにころんでも円安が見込まれる。一方、低い賃金の伸び、失業率の上昇などがサプライズとなる。(ZUU online 編集部)

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