金融リテラシー,金融関連情報
(写真=PIXTA)

要旨

本稿では、金融広報中央委員会が設置している「金融経済教育推進会議」およびその構成団体における諸取組やNISA等を利用したリスク商品への投資経験を経て、消費者の金融リテラシーが向上しているかを確認し、今後の取組みに求められる視点を明らかにすることを目的として、2013年以降の金融リテラシーの変化と消費者の金融関連情報との接点について分析を行った。

金融商品への関与や判断力、情報収集意向の高さを表す「金融リテラシー」、コンサルタントやFPなどの専門家の持つ知識を利用したり頼りにしたい意向の高さを表す「コンサルティング/情報希求」の2つの因子について、2013年と2015年の2時点間の変化を確認したところ、両因子ともに性別での差異はみられず、年齢階層別ではむしろ40代において「金融リテラシー」の低下が確認される結果となった。

一方で、リスク商品の保有状況との関係では、株式投資の経験者ではいずれの因子についても両時点間での有意差は確認できず、投信の保有者において「金融リテラシー」の上昇が確認される結果となった。

40代における「金融リテラシー」の低下は、実際の投資や勤務先等を通じて受ける投資教育の経験が、自身の貯蓄・投資に関する知識不足を実感する機会となっている可能性が、投信保有者とは異なり株式投資経験者において「金融リテラシー」の上昇が確認されなかった背景には、株式投資に際してより高度なリテラシーが求められると考えられていることが低い自己評価につながっている可能性があることが、それぞれ考えられよう。

一方、金融リテラシー、コンサルティング/情報希求の高さと金融関連の情報源の利用状況との関係については、金融リテラシーが高い層が積極的に情報を求めて様々な情報源に接しており、その結果さらにリテラシーが高まっていくという好循環が起こっているのに対し、コンサルティング/情報希求が高い層では専門家への相談ニーズはあるものの、多くは具体的な相談を持ちかけるには至らず、結果的に金融取引の都度、不十分な知識・情報のもとに意思決定を行っている可能性が示唆された。

今後、社会保障制度の縮小が確実視されるなど、家計における資産形成の重要性が高まっているなかでは、消費者の金融リテラシー向上や、家計における多様な金融商品の活用促進に向けて金融機関が担うべき役割は大きい。

金融リテラシーの向上に関連諸団体を含めた息の長い取り組みが求められることはいうまでもないが、多様な金融商品の活用を促していくためには、消費者利便性が高く金融商品の活用や資産形成について安心して相談できる、金融関連の諸団体などが提供する相談窓口のような相談先の選択肢を拡充するとともに、既存のチャネルについても消費者の相談ニーズの受け皿となるべく、消費者利便性の向上や相談先としての信頼性獲得に向けた取組みなど、消費者視点に基づいてチャネルの位置づけを再考する必要があるのではないだろうか。

はじめに

金融庁金融研究センターに設置された「金融経済教育研究会」が2013年4月に取りまとめ、公表した「金融経済教育研究会報告書」を踏まえて同年6月に金融広報中央委員会が「金融経済教育推進会議(以下、推進会議)」を設置し、国民の金融リテラシー向上に向けて様々な取り組みを開始してから約3年が経過した。同推進会議および推進会議を構成する諸団体ではこの間、図表1にあげるとおり、様々な取り組みを進めている。

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一方で2014年から開始したNISA(少額投資非課税制度)は、口座数、NISA買付額ともに順調に伸ばしている(*1)ように、多くの家計資産が株式や投資信託といった金融商品(以下リスク商品)に振向けられていることは、消費者の金融リテラシー向上の証左ともみることができよう。

この2年の間にも次々と施策が打ち出され、実行されてきたところであるが、こうした推進会議における諸取組やNISA等を利用したリスク商品への投資経験を経て、消費者の金融リテラシーは向上しているのだろうか。

本稿では、消費者の金融リテラシーに焦点をあて、2013年以降の変化を確認するとともに、消費者の金融に関する情報との接点を明らかにすることで、今後の更なるリテラシー向上にむけた取組みに求められる視点について考察することを目的としている。以降の分析には、日経リサーチ社が実施している「金融総合定点調査 金融RADAR(以下金融RADAR)」(2013年、2015年の2回分(*2))の個票データを用いる。

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(*1)金融庁が定期的に公表している「NISA口座の利用状況に関する調査結果」によれば、2015年12月末現在のNISA口座数は987万口座、購入額は6兆4,465億円(いずれも速報値)と、前年同月比では口座数で19.6%、購入額では116.5%の増加となっている。
(*2)両調査の調査概要は以下のとおりである。
調査対象:首都圏40km圏在住の20~74歳男女個人〔2013年:2680人/2015年:2655人〕
調査手法:質問紙法(留置法、郵送法の併用)
調査時期:各年10月~11月
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