詳しくよりも、なんとなく

2つ目のスキルは、イメージ化だ。

一般的に左脳は言語脳、右脳はイメージ脳と呼ばれる。このうち、情報をより速く・より多く・より長く記憶できるのは後者である。ならば当然、演説ではイメージが浮かびやすいように話し、傍聴者の右脳にアクセスすべきだろう。細かく理論的な説明は、左脳で処理されるので逆効果だ。

日常よく耳にする「東京ドーム◯個分」「汗ばむような」「車で◯時間ほど」と言った比喩表現こそ、右脳にアクセスする手軽な方法である。それぞれ広さ・気候・距離を表しているが、正確な数値は分からなくとも、聞いただけでなんとなくは分かる。1つ目のスキルの紹介の始めに書いたように、「〇〇しているところをイメージしてください」と語りかけるのも良い。

どちらの表現もおそらくほとんどの人が日頃使っているので、難しいスキルではない。気をつけたいのは、演説時の意識である。前述の通り、左脳にアクセスするのは非効果的なのだが、人前で話すとなると、得てして「詳しく正確に」伝えなければという心理が働くものだ。

豊富な知識をふんだんに盛り込んだスピーチで満足するのは自分だけだ。傍聴者の多くは理解が追いつかず、あっという間に退屈し、翌朝にはほとんど記憶から消えてしまう。目を瞑って聞いてイメージが浮かぶかが、右脳にアクセス出来ているか否かの目安になるので、友人と練習してみると良い。

沈黙がもたらす2つのメリット

最後に紹介するのは、沈黙である。

沈黙とは、何も話さず一呼吸、二呼吸と待つ「間」のことだ。先に挙げたスピーチの名手達は、もれなく沈黙も取り入れている。沈黙は、傍聴者に2つのメリットをもたらす。

ひとつは、集中力の持続だ。沈黙無き演説はリズムが単調になり、聞き手の集中力を奪う。お経が良い例だ。不謹慎と思いながらも睡魔に襲われた経験は、誰にでもあるだろう。反対に、沈黙があると聞き手は一息つき、集中力を回復させられる。

もうひとつは、情報の整理である。候補者の演説内容は、傍聴者にとって、大抵は新しい情報だ。いくら右脳で処理しても、次々に情報を与えられては頭がいっぱいになってしまう。だからこそ、沈黙の意味は大きい。ほんの数秒でいい。それまでの情報を整理する時間を与えることで、傍聴者にさらに話を聞く余裕を与えられる。

会話中の沈黙を怖れる人も多い。大勢の前でのスピーチとなればなおさらだ。人は、怖さを隠そうとすると口数が多くなるものだが、スピーチ力向上を考えるなら、勇気を出して間を作って欲しい。

選挙期間ほど、多くの演説をタダで見物できるチャンスはない。候補者の主張に耳を傾けると共に、紹介した3つのスキルを意識し観察して、街頭演説を楽しんでみてはいかがだろうか。

藤田大介 DF心理相談所 代表心理カウンセラー この筆者の記事一覧

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