社長から伝わる感謝のこころが秀逸
外食産業なので、新たにアルバイトが入社すれば早めに仕事を覚えてキッチン・ホールで働く技術を身に着ける必要がある。これは外食系産業であれば当たり前の話だが、日高屋の場合には、社員にも感謝の気持ちを大切にするように教育を徹底しているのだという。
人間の気持ちというのはダイレクトに相手に伝わるものであるため、食事の味・値段が変わらないのであれば、感謝の心をもつ社員やアルバイトのほうに客は流れるだろう。
実はこの感謝の心は日高屋の創業者である神田正氏の理念である。貧しい出身で、身一つで日高屋を大きくした経験があるせいか企業が成長した今でも質素な体質は全く変わっていない。たとえば利益が出たら自分にではなくまず社員に還元するのだという。パートやアルバイトには年2回のボーナスが支払われる。これは他の外食産業とは異なり、パートやアルバイトを社員とみなし大事にしていることを示すものだ。
社員を大切にせずに理念のみを押し付ける上層部はどこにでもいるが、日高屋の創業者は全くその逆の行為を行っているため、感謝の理念は素直に社員すべてに伝わるのだ。
また夜中の経営となると、外食の店舗ではアルバイトのサービスも昼間に比べて質が落ちる傾向がある。先ほどの理念がしっかりとアルバイトまで伝わっていれば夜中のアルバイトの質も向上する。夜は食事とともに利益率の高いビールが良く出るため、夜中の客を魅了するのはダイレクトに売上アップにつながるのだ。
こうして創業者の理念が企業全体に伝わることは思わぬ企業収益を生み出すことにつながるのだ。
インバウンド需要と価格の安さが客足の伸びを後押し
いわゆる日高屋の場合には、本格的に料理を食べに来る人とシメの一杯を楽しみにくる人に分類される。ここ数年インバウンド需要により一部の企業の売上が大きく伸びていることが話題になっているが、日高屋もインバウンド需要の恩恵を受けたようだ。
その立地となにより価格の安さで多くの外国人を虜にしているようだ。確かに、外国人は日本製品(家電や化粧品など)を買う際には高い金を支払う傾向があるが、食に関してはできるだけ安く済ませるような印象がある。そのため駅前のワンコインランチや夜食ができる場所は外国人にはウケルのであろう。
また日高屋は仕事帰りのサラリーマンたちが2軒目として立ち寄る場所としても知られている。ちょっとした中華そばと餃子とビールをセットで頼んでも1000円程度で済むのであれば自然と足がそちらへ向くのもうなずける話だ。ちょい飲みのカテゴリーでも他社には全く引けを取らないサービス内容だといえそうだ。
これまで説明したように、日高屋はコバンザメ経営、堅実な社員教育、インバウンド需要などを取り込んで成長を拡大させてきた。頭打ちする外食企業が多い中で独自路線の戦略があたっている。今後伸びていく外食系企業を探す際の一つの視点となりそうだ。
谷山歩(たにやま あゆみ)
早稲田大学を卒業後、証券会社において証券ディーリング業務を経験。2級ファイナンシャルプランナー。ヤフーファイナンスの「投資の達人」においてコラムニストとしても活動。2015年には年間で「ベストパフォーマー賞」「勝率賞」において同時受賞。ネットマネーや日経マネーと言った経済雑誌での執筆活動も行う。個人ブログ「
インカムライフ.com
」を運営。
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