11月を迎え、紅葉の頃もそろそろ終わりに近づいています。秋といえば芸術、とりわけ「ルネサンス美術」の展覧会は日本でよく開催されていることもあり、お好きな人が多いのではないでしょうか。

私は出版プロデューサーとして「お金に関する本」をはじめ様々なジャンルの本を手がけてきました。実は「美術書」も多数プロデュースしているのですが、美術の発展は経済(お金)と密接な関わりがあるのです。

今回は中世のイタリアで花開いた「ルネサンス美術」の歴史を紐解きながら経済との関わりを見ていきましょう。

十字軍運動とヴェネツィア商人

ルネサンス美術,メディチ家
(写真=Thinkstock/Getty Images)

ルネサンスの起源・定義についての解釈は多様で、これまでも様々な議論がなされてきました。たとえば、11世紀末に始まった「十字軍運動」からも、そのきっかけの一つを見つけることができます。

十字軍運動とは、西欧キリスト教徒が東欧や中東地域に向けた軍事遠征のことで約200年にわたって展開されました。そんな度重なる十字軍の遠征の恩恵を受けたのがヴェネツィアです。当時のヴェネツィア商人たちは、十字軍を相手に船を貸し、食糧や水を売り、兵士まで派遣する「ビジネス」を行いました。時にはビジネスの報酬に征服地の一部を領土として受け取ることもあったといいます。同時に十字軍によってもたらされた香辛料などが、地中海を渡って運ばれ、貿易の拡大・発展をもたらしました。

当時のヴェネチアは、約200年にわたる十字軍運動を後ろ盾に経済的にも大きく発展したのです。強大な経済力を有する商人たちは、政治的にも大きなチカラを持つようになり、やがて国を動かすまでになりました。ヴェネチアだけではありません。フィレンツェなど当時のイタリアの主だった都市は政治的にも経済的にも「ギルド(※イタリア語で「アルテ」)」という商工業者の大組合が権力を掌握していたのです。そして、こうした政治経済システムがルネサンスの母体となりました。

フィレンツェ「欧州金融センター」の発展

14世紀初頭のフィレンツェは毛織物業や金融業(両替組合)が大きなチカラを有し、欧州の金融センターとしての役割を果たしていました。

フィレンツェといえば、何と言っても「メディチ家」ですよね。でも、当時のフィレンツェの銀行の最大手はバルディ、2位はベルッツィで、メディチ銀行は新興企業にすぎませんでした。

メディチ家に大きな転機が訪れたのは1337年に始まった「百年戦争」でした。この戦争で膨大な借金を抱えた英国王エドワード3世が、あろうことか借金を踏み倒したのです。いわゆる債務不履行なのですが、その被害を受けたバルディ、ベルッツィの両銀行が経営破綻に追い込まれてしまいました。

1位・2位の銀行の経営破綻でフィレンツェ経済が大混乱に陥る中、新興企業のメディチ銀行が台頭し、やがて金融業の頂点に君臨します。メディチ家が得た富は莫大なもので、その財力で多くの「文化的パトロン」も果たしました。ヴォロッキオ、ボッティチェッリ、レオナルド・ダ・ビンチ、ミケランジェロなどそうそうたる芸術家たちをパトロンとして支援し、ルネサンス美術を育んだのです。

それにしても、英国王が借金を踏み倒さなければ、その後の美術史も大きく変わっていたかも知れません。経済が芸術に与える影響はそれだけ大きいということなのでしょう。

美術史を知れば「経済史が分かる」

さてさて、そんなルネサンスも次第に衰退し、終焉を迎えるのですが、その背景にはいくつかの要因があります。

一つは、ギルド(アルテ)が雇っていた傭兵です。傭兵は戦いの時にだけ雇用すれば良い「派遣労働者」のようなものなのですが、その制度が裏目に出ました。すなわち、傭兵を敵方に寝返らせないために給料がどんどん値上がりしたのです。ギルドの中には傭兵の雇用期間を延長するために戦闘を長引かせるということもあったようです。結果として軍事費が膨らみ財政を圧迫しました。

コロンブスによる「新大陸発見」もルネサンスの衰退をもたらした要因の一つです。新航路の発見により香辛料の価格が半分以下に急落したからです。それまで地中海貿易で得ていた大きな富は、大西洋貿易に移行しました。

ほかにも宗教改革など様々な要因が指摘されますが、ルネサンス美術に限らず芸術・文化の発展の裏側には「経済(お金)のチカラ」が大きく作用していることが珍しくありません。美術史を知るということは「経済史を知る」ことでもあるのです。

長尾義弘(ながお・よしひろ)
NEO企画代表。ファイナンシャル・プランナー、AFP。徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『こんな保険には入るな!』(廣済堂出版)『怖い保険と年金の話』(青春出版社)『商品名で明かす今いちばん得する保険選び』『お金に困らなくなる黄金の法則』(河出書房新社)、『保険ぎらいは本当は正しい』(SBクリエイティブ)、『保険はこの5つから選びなさい』(河出書房新社発行)。監修には別冊宝島の年度版シリーズ『よい保険・悪い保険』など多数。

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