初心者投資家には敬遠される傾向のある「カラ売り」ですが、相場が上がり続けることはありません。下落傾向にある時も、効率よく利益を上げるためには、空売りのスキルを学ぶ必要があります。そもそもカラ売りとは、「先に売って、後で買う」という類の取引のことであって、「信用取引の新規売り建て」のことをさします。そこで、信用取引の始めるにあたっての口座の作り方や、追証差し入れの期限など、基本的なことをここで学んでいきましょう。
(本記事は、二階堂 重人氏の著書『株トレード カラ売りのルール』=すばる舎、2017年10月18日=の中から一部を抜粋・編集しています)
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・(2) 「カラ売り」とはどんな取引なのか?怖いのか?
・(3) 怖いと思うことはとても大事
投資家・トレーダーのほとんどは「買い」しかしない
「株の売買をする」というと、ほとんどの人は、「先に株を買い、後から売る」という「買い」しかしません。
上昇相場でも、下降相場(下落相場)でも関係なく、「先に株を買い、後から売る」という売買をします。
株の売買といえば、買うのが当たり前、と思っている人も少なくありません。
(先に)買うということは、買った後に値上がりすると利益が出ます。
相場が上昇傾向のときは、これでいいでしょう。
トレードの上手い下手に関わらず、利益を得やすくなります。
上昇傾向が続くかぎり、利益は増えていきます。
たとえ、高値で買ってしまい、含み損が出たとしても、売らずに持ち続けていれば、いずれは高値を更新して含み損が含み益になることでしょう。
「どんな銘柄でも買えば儲かる」「どこで買っても儲かる」というわけではありませんが、銘柄やタイミングを勘で決めても、相場の上昇傾向が続くなら、儲かる確率は高いでしょう。
目立つ成功者の多くも買いしかしていない
「銘柄やタイミングに関係なく利益が出やすい」ということは、言い換えれば「簡単に利益が出る」ということになります。
そのため、相場が上昇傾向のときは、株トレードや株式投資の初心者でも儲かる確率が高いわけです。
それを象徴するかのように、相場が上昇傾向のときは、
「株トレードで1億円儲けた」
「主婦の私でも数千万円儲けた」
といった本がたくさん出たりします。
また、儲かっているトレーダーや投資家がテレビ番組で取り挙げられたりします。
本を出したり、テレビ番組に取り挙げられたりした方のほとんどは、買いしかしていないようです。
大きな上昇の流れにうまく乗れたため、大きく儲けることができたと考えられます。
下落傾向のときに買いだけで儲けるのは難しい
相場が上昇傾向のときは、株を買えば儲けられる確率が高いといえます。
しかし、株式相場は上がるときだけではありません。下がるときもあります。
上昇傾向のときもあれば、下落傾向(下降傾向)のときもあるわけです。
下落傾向のときに買いだけで取引するとどうなるのでしょうか。
株を買っても値下がりする確率が高いので、含み損が出てしまいます。
買った株を持ち続けると大きな損失が出てしまうこともあります。
下落傾向のときに株を買うということは、(下落という)大きな流れに逆らうことです。儲けるのは大変です。
儲けていたトレーダーや投資家なら買いで儲けられるのか
上昇傾向のときに儲けていたトレーダーや投資家はどうなるでしょうか。
下落傾向でもしっかり儲け、資金をさらに殖やしていけるのでしょうか。
本を出したり、テレビ番組で取り挙げられるくらいですから、上手く立ち回れるような気がします。
おそらく、ほとんどの人は儲けられないはず。いや、それどころか、上昇傾向のときの儲け分を吐き出してしまうでしょう。資金を大きく減らしてしまいます。
上昇傾向のときにデイトレードで数億円も儲けたが、その後、下落傾向に転じたらまったく儲けられなくなり、儲けた数億円を失ってしまったという人もいます。
このデイトレーダーだけでなく、上昇傾向のときに儲けていたトレーダーや投資家の多くは、同じようなことになるようです。
なぜ、上昇傾向のときは大きく儲けられたのに、下落傾向のときは儲けられないのか。
その理由はいくつかあると思いますが、決定的なのは「買いしかやらない」からです。
下落傾向のときは、値上がりする確率よりも、値下がりする確率のほうが高くなります。 そのようなとき、買いは不利。損をする確率が高いといえます。
言い方は悪いかもしれませんが、サラリーマンや主婦が簡単に儲けられる相場ではないのです。
流れに逆らう取引では、それなりにスキルがないと儲けられません。
下落傾向の時はどのような取引が有利なのか?
では、下落傾向のときはどうすればよいのでしょうか。
「買わない」「見送る」という選択肢もあります。
「損をする確率が高いのなら買わない」と決めて、下落傾向のときはトレードをしない人も多くいるようです。
下落局面ではずっと資金を使わないで休ませておく。上昇局面になるまで待つわけです。
これは賢い選択(または判断)のように思えます。
しかし、資金効率を考えると、けっして賢い選択とはいえません。
上昇局面になるのはいつなのかわかりません。それまでずっと資金を休ませておくことになります。休ませた分、資金効率が悪くなるわけです。
せっかくある資金ですから、フル活用、フル回転させて、どんどん増やしていったほうがいいと思いませんか。
下落傾向のときはカラ売りが有利
下落傾向のときはどうすればよいのかについては、本書を手に取っている方なら、すでにわかっていると思います。
カラ売りをすればいいのです。
下落傾向のときに買うということは、大きな流れに逆らうということ。その逆の「売り(カラ売り)」なら、大きな流れに乗ることになります。
ここで、カラ売りについて簡単に説明しておきましょう。
カラ売りとは、信用取引の「新規売り建て」のこと。
「先に売って、後から買う(買い戻す)」という取引のことです。
売った後に、株価が値下がりすると利益が出ます。
たとえば、株価500円の銘柄をカラ売りしたとします。その後、株価が400円に値下がりしたところで買い戻します。100円値下がりしたわけです。この差額の100円分が利益になります。
値下がりすると利益が出るわけですから、下落傾向のときは有利になります。
カラ売りができるようになれば、どのような相場でも有利なトレードが可能になります。
上昇傾向のときは買いのほうが有利なので、今まで通りに(または多くのトレーダーや投資家が儲けたように)買いだけでトレードをすればいいでしょう。
そして、下落傾向のときはカラ売りのほうが有利なので、カラ売り中心でトレードをすればいいでしょう。
どちらのときも大きな流れに乗るわけですから、儲けるのはそれほど難しいことではありません。
上手く立ち回れば、大きく儲けることができます。
買いをカラ売りにすれば儲けられるのか
「今まで買いで損をした。これからはカラ売りで儲けよう」ここまで読んで、そう思った方も多いことでしょう。
「買いで損をした」ということは、買った株が値下がりしてしまったということ。
「値下がりしてしまった」ということは、カラ売りなら利益が出たということです。 たとえば、ある銘柄を買って、20万円の損失が出たとします。
もし、買いではなくカラ売りをしていたのなら、20万円の利益が出たことになります(説明をわかりやすくするため、売買手数料や税金は考慮しない)。
株トレードは、買うか売るかの選択しかないわけです。
買いで駄目だったのなら、その逆の売りならよかったわけです。
こう考えると、なんだかカラ売りで簡単に儲けられそうな気がしてきます。
とくに、買いで大きく損をした人ほど、カラ売りで簡単に儲けられそうな気がするはずです。
では、実際に、トレードを買いからカラ売りに替えただけで簡単に儲けられるのでしょうか。
答えは、ノーです。
なぜなら、同じような過ちを犯すからです。
株を買って損失が出たのは、「買い」が原因だったのでしょうか。
カラ売りをしていたら利益が出た、という考え方をすると、「買い」が間違っていた、これが原因のように思えます。
しかし、そうではなく、原因はほかにあります。
カラ売りに替えれば儲けられるというわけではありません。下落傾向のときに有利な取引ができる、というだけ。
やはり、その時々の流れを見極めたり、リスク(損失)をコントロールしていくことが大切です。
これができなければ、カラ売りでも同じ。また損をしてしまうでしょう。
「カラ売りの基礎知識」
まずは、カラ売り自体を説明しましょう。カラ売りとは、「信用取引の新規売り建て」のことです。
株の取引は、大きく分けると二つあります。一つは現物取引で、もう一つは信用取引です。
現物取引とは、証券口座にあるお金で株を売買すること。
証券口座に入っている金額分しか買えません。たとえば、口座に100万円あったとしたら、100万円分の株しか買えないわけです。
また、現物取引では「、先に買って、後で売る」という取引しかできません。
これに対して信用取引とは、証券口座にあるお金を担保にし、株を売買することです。
証券口座に入っている金額の約3倍まで株を売買できます。たとえば、口座に100万円あったとしたら、300万円分の株まで買えるわけです。
また、信用取引では「、先に買って、後で売る」という取引のほか「、先に売って、後で買う(買い戻す)」という取引ができます。
この、「先に売って、後で買う」という取引が、「信用取引の新規売り建て」のこと。つまり、カラ売りのことです。
信用取引の始め方
では、信用取引はどのようにすれば始められるのでしょうか。
証券口座を開設した場合、それは一般口座であり、「現物取引の口座」です。とうぜん、現物取引しかできません。信用取引はできないわけです。
信用取引を始めるには、信用口座を開設する必要があります。
一般口座を開設した後、信用口座開設の申請をしましょう。
審査に通れば、信用口座が開設されます。
審査といっても、それほど厳しいわけではないようです。
私の周りで「信用取引口座開設の審査に通らなかった」という人はいません。
信用口座を開設した後は、指定された口座に現金を入金し、残高として反映されれば、信用取引を開始できます。
信用取引の保証金は、現金でなくてもかまいません。
持っている株式を保証金にすることもできます。これを「代用有価証券」といいます。
上場株式なら担保にすることが可能ですが、代用有価証券は証拠金としての評価が証券会社によって異なります。いわゆる、「掛け目」があるわけです。
たとえば、100万円分の株を持っていたとします。これを代用有価証券として差し入れた場合、評価は100万円にはなりません。これよりも少なくなります。
掛け目が8割(80パーセント)なら、評価額は80万円になります。
掛け目は証券会社ごとに異なります。また、上場されている市場によっても異なります。
東証1部上場銘柄の場合、ほとんどの証券会社では掛け目が8割に設定されています。掛け目については、取引している証券会社で確認してください。
また、株式だけでなく、債権や投資信託を代用有価証券にできる証券会社もあります。しかし、それはごく一部の証券会社だけで、ほとんどの証券会社は株式だけです。これも、取引している証券会社で確認してください。
掛け目の変動に注意
代用有価証券はうまく活用すれば、資金効率を上げることができるのですが、注意しなければならないことがあります。それは、掛け目です。
先にも述べた通り、掛け目は各証券会社によってことなります。
各証券会社が独自に決めているわけです。そのため、変動することがあります。
証券会社が8割といえば8割ですが、0といえば0になってしまうのです。
かつて、マネックス証券がライブドア株(上場廃止)およびその関連会社株の掛け目を 0にしたことがありました。
2006年1月17日の後場に突然、発表したため、関連株を代用証券にしていた人はもちろん、そのほかの投資家もパニックになりました。市場全体が混乱したといえます。
掛け目が下がれば、その分、証拠金を差し入れなければならないことがあります。こういったリスクがあることも頭に入れておきましょう。
ここで、委託保証金率の算出方法について説明しましょう。
委託保証金率とは、約定代金総額(または建て玉の総額)に対して必要な委託保証金の比率のこと。
委託保証金率の計算式は以下の通りです。
委託保証金率%=(保証金-建て玉の損失) ÷ 建て玉の合計(建て玉価格)×100
たとえば、保証金として100万円を証券会社に預けたとします。そして、信用取引で 200万円分の建て玉をしたとしましょう。
この場合、まだ建て玉の損失はないので、委託保証金率は以下の通りです。
100万円÷200万円×100=50%
次に、同じ保証金、同じ建て玉で、建て玉の損失が20万円ほど出ていたとします。 この場合、委託保証金率は以下の通りです。
(100万円-20万円)÷200万円×100=40%
信用取引で買い建てや売り建てをした場合、必ずしも思惑通りに株価が動くとはかぎりません。
買ったが値下がりしてしまった、カラ売りしたが値上がりしてしまった、ということはよくあります。
当然、含み損が発生します。
多少の含み損が出てもある程度の保証金率を維持していれば、問題ありません。そのまま取引を継続できます。
しかし、さらに含み損が拡大すると、保証金率が大きく低下してしまいます。そして、保証金率が20~25パーセントを割り込んでしまうと、「追証」が発生してしまいます。
追証とは、追加保証金のこと。
保証金率が最低維持率を下回った場合、定められた期限までに保証金を追加しなければなりません。この追加保証金が追証ということです。
最低維持率は証券会社によってことなります。いくつか例を挙げておきましょう(※ 2017年7月23日現在の情報です)。
岡三オンライン証券……最低保証金維持率20パーセント
松井証券……最低保証金維持率20パーセント
マネックス証券……最低保証金維持率25パーセント
楽天証券……最低保証金維持率20パーセント
かつて、ほとんどの証券会社では最低保証金維持率が25パーセントに設定されていました。
しかし、現在では最低保証金維持率が20パーセントに設定されている証券会社もけっこうあるようです。
追証を差し入れる期限はいつなのか?
追証が発生すると、定められた期限までに保証金を追加しなければなりません。証券会社の口座に入金しなければならないわけです。
では、その期限はいつなのでしょうか。
「追証発生日の翌々営業日12時まで」かつては、多くの証券会社がこの期日でした。
現在では、各証券会社によって異なります。また、証券会社によっては、維持率によって期限がことなるようです。
いくつか例を挙げておきましょう(※2017年7月23日現在の情報です)。
岡三オンライン証券・・・追証発生日の翌々営業日15時まで
松井証券・・・維持率が10パーセント以上20パーセント未満の場合は追証発生日の翌々営業日11時30分まで、維持率が10パーセント未満の場合は追証発生日の翌営業日11時30分まで
マネックス証券・・・維 持率が25パーセントを下回った場合は追証発生日の翌々営業日まで、維持率が20パーセントを下回った場合・保証金額が30万円を下回った場合は追証発生日の翌営業日まで
楽天証券・・・追証発生日の翌々営業日15時30分まで
このように、期限はマチマチなので、取引している証券会社で確認しましょう。
追証を差し入れないとどうなるのか?ネット証券の場合、追証の連絡はメールでくるようです。口座の管理画面に送られてくると思います。
追証を差し入れないとどうなるのでしょうか。
これは「強制決済」になるようです。
買い建てをしている株は強制的に売られてしまい、売り建てをしている株は強制的に買い戻されてしまいます。
「もう少しだけ待ってほしい」「その買い建てだけは決済しないでほしい」などといっても無駄。すべて強制決済されてしまいます。
「強制決済される」と聞いて、慌てて追証を差し入れる人も多いようですが、差し入れたほうがよいのか、悪いのかはなんともいえません。
追証が発生したら自分のトレードを見直す
「カラ売りした銘柄に好材料が出て急騰してしまった」「買った銘柄に悪材料が出て急落してしまった」というように、突発的な材料で大きな含み損が出て追証が発生してしまうこともあるでしょう。
こういった「運が悪い」というケースもありえます。
しかし、突発的な材料が出ていないのに追証が発生するということは、トレードがよくなかったということです。
とくに、リスクのコントロールができていなかった可能性が高いと思います。
追証が発生したら、「自分のトレードのどこが悪かったのか」を考え(見直し)、改善してからトレードを再開しましょう。そうしないと、また、追証が発生してしまう可能性があります。
次は、カラ売りについて説明します。
カラ売りとは、信用取引の「(新規)売り建て」のこと。
よく、「ないもの(持っていないもの)をどのようにして売るのか」ということを聞かれました。たしかに、株を持っていないわけですから、売ることができません。
では、株を借りてくれば、どうでしょうか。実際には、「信用口座のお金を担保に株を借り、それを(先に)売って、(後から)買い戻す」ということになります。
カラ売りの損益は買いの逆です。買いでは、現物や信用取引に関わらず、値上がりすると利益が出て、値下がりすると損失が出ます。
たとえば、500円の株を買った場合、 501円以上になれば利益が出て、499円以下になれば損失が出るわけです。
カラ売りでは、値下がりすると利益が出て、値上がりすると損失が出ます。たとえば、 500円の株をカラ売りした場合、499円以下になれば利益が出て、501円以上になれば損失が出るわけです。
カラ売りは、買いの逆、値下がりすると利益が出て、値上がりすると損失が出る、と覚えておきましょう。
二階堂 重人 (にかいどう・しげと)
1959 年、埼玉県生まれ。専業トレーダー。テクニカル分析を駆使したデイトレードやスイングトレードが中心。株、FX の双方で驚異の勝率を叩き出している。主な著書に、『小心者こそ儲かる 7 日間株トレード入門』『東京オリンピックまでに株で 1 億円儲ける!』(ビジネス社)、『「急騰低位株」で 1 億儲ける!』(あさ出版)、『サラリーマンが株で稼ぐ一番いい方法』(三笠書房・知的生きかた文庫)、『デイトレードで毎日を給料日にする!』『FX常勝のトレードテクニック』『FX 常勝の平均足トレード』『FX 常勝の平均足ブレイクトレード』『FX トレードレッスン【厳選 35 問】』(すばる舎)などがある。
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