昨年12月30日、トヨタ自動車 <7203> の顧問で元代表取締役社長の豊田達郎氏が亡くなった。米国で「ジャパンバッシング(日本叩き)」が吹き荒れた1980年代、その背景にある日米経済摩擦問題を解決するためにトヨタ自動車(以下、トヨタ)が米GMと設立した合弁会社の社長を務めたのが豊田達郎氏だった。1990年代にトヨタの社長として環境問題にいち早く対応すべく「プリウス」の開発を始めたのも同氏である。1995年の東京モーターショーの参考出品車として展示された「プリウス」は新しい時代を象徴するモデルとして注目を集めたのを今でも覚えている。

モータリゼーションの絶頂期に青春時代を過ごした筆者にとって、豊田達郎氏は「自動車業界のパラダイムシフト」を象徴する人物であったように思う。先週10日、その哀悼が号砲となったかのようにトヨタの株価が2年ぶりの高値を付けてきた。今回はトヨタ株が上昇した背景を探ってみよう。

新技術で米アマゾン、ピザハットと提携

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(画像=Thinkstock/GettyImages)

米ラスベガスで世界最大級の家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー2018(CES)」が9日から開催された。CESはIoTやドローン、AR・VRなど電機系の新しい技術を発表するイベントなのであるが、今年のメディアの報道ぶりを見ると、まるでモーターショーのようでもある。

というのも、今回のCESでは各国の自動車メーカーの新技術の発表が相次いだためだ。トヨタも例外ではなく、自動運転技術を活用したモビリティーサービス専用のEV(電気自動車)を発表した。「イー・パレット」と名付けられたそのEVは宅配サービスや物販、ライドシェア、医療サービスなど多目的に利用することが可能であるという。

トヨタは「イー・パレット」の実用に向けて、米アマゾンやピザハット、中国ライドシェア大手の滴滴出行などと提携し、2020年代前半のサービス実証を目指すとともに、東京五輪・パラリンピックにもこうした技術を搭載した車両を投入する意向も示している。

東京五輪・パラリンピックといえばあと2年である。ここにきてトヨタ株が上昇した背景には、こうした新時代のテクノロジーへの積極的な姿勢が評価された側面も大きいといえそうだ。

自動車が家電化する? 世界勢力図に変化

筆者は「世界のトヨタ」のコンセプトモデルがモーターショーではなく、CESで発表されるということが時代を象徴していると考えている。それは言い換えると、自動車の「家電化」である。

日本の電機メーカーはかつて、パソコンや携帯電話で世界大手だった。ソニーのVAIO、東芝のダイナブックなどは世界の最先端のパソコンだった。携帯電話もNEC、富士通、ソニーなどが時代の最先端モデルを投入していた。

しかし、パソコンがOSやプラットフォームの共通化で、部品さえ調達出来れば「組み立て」が自由に出来るようになると、家電化・コモディティ化が一気に加速。その結果、大手メーカーは市場からの撤収を余儀なくされた経緯がある。

携帯も同じ流れだ。日本が「ガラパゴス化」で独自の展開をしているうちに、世界はOSとプラットフォームを共通化し、アップルとアンドロイドが圧倒的な世界シェアを握ることとなった。その影響で多くのメーカーが携帯電話市場から退場させられたのである。

自動車も、EV化、コネクテッドカー化で「家電化」が加速する可能性が濃厚といえるだろう。共通プラットフォームで部品を調達した中国や台湾のEMS大手が「組み立て」を担当するようになるのは時間の問題かも知れない。そうなると、パソコンや携帯で見られたように、世界の「自動車業界の勢力図」が一気に塗り替えられることにもなりかねない。

生き残りをかけた戦いは始まったばかり

トヨタはエコカーの取り組みとしてハイブリッド、プラグインハイブリッド、燃料電池自動車、EVなど全方位型で対応していたが、昨年あたりから方針を大きく転換し始めた印象を受ける。

たとえば、トヨタは2030年までにゼロ・エミッション・カーを100万台販売し、バッテリーの開発や生産に約1兆5000億円を投資する計画を昨年発表している。2025年頃にはエンジン車の生産を打ち切る予定のほか、EVバッテリーに関してはパナソニックとの提携も発表した。こうした一連の流れから筆者には、トヨタが完全にEV重視に舵を切り始めたように感じられるのだ。

さらにトヨタは、コネクテッドカーに関してもNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクとも協業、5G技術を利用した取り組みを強化しはじめている。株式市場では筆者を含む多くの市場関係者が、先に述べたパソコンや携帯電話の勢力図が「激変」する中でメーカーが衰退する様子を目の当たりにしてきた。だからこそ、逆に最近のトヨタのアグレッシブな姿勢が評価されたのでないだろうか。

生き残りをかけた戦いは始まったばかりだ。トヨタがどのように変貌するのか、引き続き目が離せない。(ZUU online 編集部)