筆者は長年マーケットに携わっていることもあり、経済小説が大好きである。企業や業界、人物にフォーカスした経済小説は多くの気づきを得ることができるし、何より理屈抜きで面白い。中でも『海賊とよばれた男』(百田尚樹著、講談社)はお気に入りの作品の一つだ。

この作品は2013年に本屋大賞を受賞、2016年には岡田准一主演で映画化もされている。そして、その主人公のモデルは出光興産 <5019> の創業者、出光佐三である。『海賊とよばれた男』のカルチャーと遺伝子を引き継いだ出光興産は、かなり「男前」の会社であったように思う。昨年は「お家騒動」などに揺れる場面も見られたが、これからも変わらず「男前」の会社であり続けて欲しいものである。

創業者の出光佐三の「こだわり」とは

出光興産,株価
(画像=Thinkstock/GettyImages)

出光興産の歴史は古い。1911年、福岡県門司市(※現在の北九州市門司区)で出光商会として創業した。

創業者の出光佐三が目指したのは、直売することで大手よりも安く供給するビジネスモデルであったとされている。しかし、当時の石油元売りの新参者は自由に石油を扱うことが出来ないうえ、門司市での商売も難しい状況であった。そこで彼は打開策として軽油を扱い、門司市でなく域外の「海の舟の上」で商売をした。彼が「海賊」と呼ばれたのはそのためである。

彼が掲げる企業理念・カルチャーは人を尊敬し、店員を家族として扱い、愚痴らず、常に正しいことに向かって前向きに進むことだった。「大家族主義」という日本的経営を標榜し、かつてはタイムカードも定年制もなかったことでも知られている。

また、彼は管理された日本よりも海外に成長の可能性を見出し、行動した。満州では寒さに強い高品質の石油を武器に、当時の米スタンダード石油の顧客であった満州鉄道との取引に成功している。直売のために独自でタンカーも所有し、新しい調達先を求めてイランとも取引を始めた。

第二次世界大戦後、石油は米国GHQの管理下に入った。大手石油元売り会社は米国メジャーの傘下に入ることで生き延びる道を選んだが、出光興産はあくまでも独立した「民族系」として事業拡大を目指した。

変わるべきか? それとも?

国の規制にも、米国メジャー資本にも屈せず、独立を守り続けた出光興産。そんな同社も大きな変化を迎えようとしている。

2006年10月、出光興産は東証1部に上場した。かつては「未上場の大企業」と呼ばれた出光興産であるが、石油業界の再編で元売りが集約する流れの中、上場して資本政策をとる必要が生じたためと見られる。

ちなみに、現在の経営陣は創業家(出光家)と直接の関係はないが、それでも創業家は筆頭株主であることに変わりない。そうした中で経営陣は、拡大戦略の一環として昭和シェル石油 <5002> との合併の道を選択した。2016年12月、メジャー資本のロイヤル・ダッチ・シェル社が保有する昭和シェル石油株の33.3%を1691億円で取得し筆頭株主となったのである。昭和シェル石油は、1985年に昭和石油とシェル石油が合併して生まれた「石油メジャー」の系譜を持つ会社。その昭和シェル石油と出光興産が合併する計画だった。

石油業界は、2010年に日本石油と日本鉱業が合併しJXホールディングスが生まれ、さらに2015年にはJXホールディングスと東燃ゼネラルが経営統合してJXTG <5020> が誕生した。この経営統合でJXTGは国内ガソリン販売で5割のシェアを持つ企業となった。出光興産が昭和シェル石油との合併を目指したのは、JXTGとのシェア争いを見据えてのことだろう。石油業界はJXTGと出光グループ、コスモエネルギーホールディングス <5021> の3大グループになるはずであった。

ところが、その出光興産と昭和シェル石油の合併に筆頭株主の出光家が反対した。一方、経営陣は公募増資を行い、出光家以外に割り当てることを発表。出光家の持ち株比率を下げることで、(出光家の)影響力を弱めることが狙いだったと見られる。

出光家は、公募増資の「差し止め請求」を提出したが裁判所はその訴えを退け、2017年7月に1200億円の公募増資が実行された。その結果、出光家の持株比率は33.92%から約26.0%まで低下したのである。現在もなお出光家は「反対」の姿勢を崩しおらず、合併が実現する見通しは立っていない。

「お家騒動」でも株価は過去最高値

前記のような「お家騒動」にもかかわらず、出光興産の株価は昨年12月27日に4690円の上場来高値を付けている。

出光興産は2017年3月期の最終利益で881億円と過去最高を計上。2018年3月期の最終利益についても、13%増の1000億円と過去最高を更新する見込みだ。

好業績の背景は景気拡大による石油需要の増加と石油市況の上昇だ。石油元売り会社は在庫を保有するため、基本的に石油市況が上がれば儲かり、市況が下がれば儲けが縮小する。昨今の世界的な景気拡大を後ろ盾に需要は増大、市況も上昇しており、石油元売り会社にとっては好循環の局面を迎えていると言えるだろう。

実際、JXTGや昭和シェル石油、コスモエネルギーホールディングスも先週1月15日に揃って昨年来の高値を更新している。筆者は出光興産について、業績が良好な今こそ合併のチャンスと考えているが、同時に『海賊とよばれた男』のカルチャーと遺伝子を守り継承するのは決して容易ではないように感じられる。株主はもちろんのこと、すべてのステークホルダーにとってハッピーなかたちで幕を降ろすことを祈らずにはいられない。(ZUU online 編集部)