信用取引では、他の投資家がどのようなポジションを取っているかが、残高という形で確認できる。それが信用取引残高であり、信用取引の取り組み状況とも呼ばれる。信用取引残高はその銘柄の将来の値動きを予想する上で非常に重要であり、信用取引を行う場合だけでなく、現物株取引を行う場合でも確認する事を心掛けたい。

信用取引残高で他の投資家の見方を把握できる

信用取引,残高
(画像=PIXTA)

信用取引では、資金を借りて株式を購入する買建てのポジションと、株式を借りてその売却から取引に入る売建てのポジションの2つが存在する。相場の上昇が見込まれる時には前者、相場の下落が見込まれる時には後者のポジションを取る。

市場において、買建てポジションの残高は信用買い残、売建てポジションの残高は信用売り残と呼ばれる。これらの残高状況は信用取引の取り組み状況とも呼ばれ、非常に重要なデータとなる。なぜ信用取引の残高状況は重要となるのだろうか。

まず一つ目の理由は、市場参加者がその銘柄をどのように見ているかを把握できる点である。信用買い残の増加は、資金を借りてでもその銘柄へ投資をしようとする人の増加と言い換える事ができ、ポジティブな見方をする投資家の増加を意味する。信用売り残の増加は下落を予想する投資家の増加であり、ネガティブな相場観と見る事ができる。これらは、短期的な株価動向の方向性を予想する時に役立つ。

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将来的な反対売買の圧力を見る視点が重要

一方で信用取引残高には、もう一つ別の見方がある。それは、将来的な反対売買の圧力を計るという見方である。

信用取引では基本的に反対売買による決済が必要となる。買い残であれば、売却によって資金を得て返済に充てなければならない。また、売り残であれば、株式の買い戻しによって株券を得て、返済を行う必要がある。

つまり、買い残は将来的な売り圧力、売り残は将来的な買い圧力と言える。信用取引の取り組み状況が買い残、もしくは売り残のどちらかに偏っている場合、その決済における反対売買が、将来の株価に影響を及ぼすのである。

このように、信用取引残高では将来の反対売買の圧力を把握し、その銘柄の株価にどの程度影響を与えるかという視点も非常に重要であると言えよう。

信用取引残高のデータを見るには?

信用取引残高のデータはどのように見れば良いのだろうか。公表される信用取引残高のデータは主に3種類ある。

各取引所が取りまとめる「銘柄別信用取引残高」、日本取引所グループ <8697> が取り纏める「二市場信用取引残高」、証券金融会社である日本証券金融 <8511> が公表する「日証金貸借取引残高」である。

それぞれ個別に説明していこう。

銘柄毎の取り組み状況を正確に把握できる「銘柄別信用取引残高」

「銘柄別信用取引残高」は各取引所が公表する指標であり、東京証券取引所では、毎週第二営業日(火曜日)の16時30分を目安に、前週末時点での信用取引残高の公表している。

この指標の特徴は、制度信用と一般信用の全ての残高を網羅しており、最も正確に市場全体の信用残高を把握できる点にある。一方で、週に一度の公表となる為、速報性に欠けるという点には注意が必要だ。

全体の相場観の把握に活用「二市場信用取引残高」

「二市場信用取引残高」は、東京証券取引所が取りまとめて、毎週第二営業日(火曜日)の16時を目安に公表する指標である。前週末時点での東京証券取引所と名古屋証券取引所における市場全体の信用取引残高である。

東証と名証に分けて、制度信用、一般信用の残高が公表されるだけでなく、一部市場と新興市場を含む二部市場に分けて詳細なデータが発表される。

銘柄毎の残高では無く、市場全体の信用残高を把握する事で、相場全体の温度感を計るために活用される。

速報性が最大の魅力「日証金貸借取引残高」

日本証券金融が公表する「日証金貸借取引残高」も重要な指標である。これは、日本証券金融が自身へ申し込みのあった貸借取引を元に、日々の信用取引残高を銘柄毎に公表するデータである。毎営業日の夜に速報値が、翌営業日の11時頃に確報値がそれぞれ発表される。

「日証金貸借取引残高」はその速報性の高さで非常に重要な指標だと言える。日々の信用取引残高の変化を把握するには、この指標を見る必要がある。一方で、この指標の活用には、正確性についての特徴も頭に入れておかなければならない。日証金貸借取引残高はあくまでも、日本証券金融が把握している信用取引の取り組み状況であり、各証券会社が貸株を自身で手当てするなどして日本証券金融に貸借取引を申し込んでいない場合はカウントされないのである。

日々の信用取引残高の動きを掴みたいなら「日証金貸借取引残高」、正確な信用取引残高を把握したいなら「銘柄別信用取引残高」と、使い分けることが重要である。

信用取引残高は現物株投資家もチェックしておきたい

先程、信用取引残高は将来的な反対売買の圧力を計るために活用すると説明したが、この点についてもう少し細かく説明していこう。

信用取引では基本的に反対売買による決済が必要で、特に制度信用の場合は取引後6カ月以内での決済が必要となる。制度信用における買い残とは、6カ月以内に売却を行う必要がある残高であり、制度信用における売り残とは、6カ月以内に買い戻しを行う必要がある残高なのである。

一般信用の場合、決済の期限は一律には設けられていないものの、買い残は将来の売却圧力、売り残は将来の買い戻し圧力であるという点では、制度信用と同じである。

このように、信用取引の残高を把握する事で、将来的なその銘柄の値動きの予想に役立つ事もある。信用取引を行う投資家だけでなく、現物株取引のみを行う投資家にとっても、信用残高は重要な指標と言えるだろう。

では具体的に、信用残高をどのように読み解けばよいのだろうか。

信用倍率と貸借倍率

信用残高を読み解く手法として、信用倍率と貸借倍率の2つが挙げられる。これらは信用取引の取り組み状況を表すものであり、それぞれ次の式で求められる。

信用倍率=信用買い残÷信用売り残
貸借倍率=融資残高÷貸株残高

2つの内容は同じであり、信用の買い残数を売り残数で割ったものと非常にシンプルな指標である。貸借倍率の場合、買い残数が融資残高、売り残数が貸株残数と表されている。信用取引の買い残数(融資残高)が売り残数(貸株残数)に対してどの程度であるかを見る事で、信用取引の取り組み状況を把握できる。「銘柄別信用取引残高」を元に信用取引の取り組み状況を見る場合は信用倍率、「日証金貸借取引残高」を元にする場合は貸借倍率と表される。

1倍割れは「好取り組み銘柄」の可能性、5倍以上は要注意

信用倍率と貸借倍率であるが、その比率を見る事が重要だ。一般的に、信用取引では買い残の方が多くなる傾向にある為、信用倍率は1倍以上であるケースが殆どである。

まずは、信用倍率や貸借倍率が1倍を割り込んでいる銘柄をチェックしてみよう。1倍割れの銘柄は、買い残に対して売り残が多い事を意味する。つまり、将来的な買い圧力の強い銘柄であるとも言える。このような銘柄は「好取り組み銘柄」と呼ばれ、一度株価が上昇すれば、損失拡大回避の為に売り残の決済が連鎖し、株価が上昇していく「踏み上げ」に繋がるケースもある。

また、信用倍率や貸借倍率が高い銘柄にも注意を払いたい。買い残の割合が高い銘柄では、株価の下落が買い残の決済売りの連鎖を引き起こすケースもある。倍率が5倍以上となっている銘柄には注意をしておきたい。ただ、信用倍率や貸借倍率は相場全体の動向や同業他社の動向にも大きな影響を受けるため、それらを比較する視点も頭に入れておきたい。

信用倍率や貸借倍率の利用には注意が必要

信用倍率や貸借倍率は信用取引の残高から簡単に導き出される指標であり、銘柄の値動きを予測する上で重要な指標と言える。ただし簡易的に導かれるゆえに、次の点には注意して利用したい。

まず、信用倍率や貸借倍率が1倍割れとなっているケースでは、その背景を冷静に分析する必要がある点だ。悪材料が出尽くしていない中での取り組み状況の悪化は、今後の買い圧力を上回る売りを招く可能性もある。当たり前の話であるが、その銘柄のファンダメンタルズにも気を配っておく必要もある。

また、信用倍率や貸借倍率が1倍割れとなっている場合でも、その残高の絶対数が少なければ、将来的な株価上昇が見込めないケースもある。時価総額等に対する信用取引残高を見る視点も必要だろう。

信用倍率や貸借倍率が高倍率となっているケースにおいても、注意すべき点がある。買い残の決済は反対売買で行われるのが一般的だが、その銘柄の先高感が継続する場合、投資家が資金を別で手当てして、その銘柄を保有し続ける「現引き」による決済が行われる可能性がある点だ。「現引き」による決済が行われた場合、当座の売り圧力は解消されるため、相場上昇が続く可能性もある。こちらも倍率だけを見るのではなく、ファンダメンタルズ等を見ることも必要となる。

信用倍率や貸借場率は、信用の取り組み状況を把握し、将来の相場予測に活用できる指標であるが、他の指標や銘柄のファンダメンタルズ等と合わせた活用をするべき指標である。

信用取引残高は多くの情報を与えてくれる指標

信用取引の残高を見る場合、信用倍率や貸借倍率を見る事は重要であるが、それと同時に、銘柄毎の日々の変化や相場全体の変化にも気を付けておきたい。もちろん、全銘柄の動向をチェックする事は不可能だが、自身が普段ウォッチしている銘柄の変化には、アンテナを張っておこう。

信用取引残高の動向を常に意識しておけば、変化の予兆を見つける事ができる可能性もある。信用取引の残高は非常に多くの情報を与えてくれる指標である。信用取引を行う投資家だけでなく、現物株投資を行う投資家の方も普段から意識的に注意を払いたい。(ZUU online編集部)

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